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飴色に輝くヌメ革の革靴。 履き込むほどに自分だけの艶が生まれ、特別な一品になっていく経年変化(エイジング)は、革好きにとって何よりの魅力ですよね。

しかし、いざ自分も!となると「手入れが難しそう…」「水に濡れたらどうなるの?」「高価な買い物で失敗したくない」といった不安が頭をよぎりませんか?

結論から言うと、ヌメ革の革靴を上手に育てる鍵は「革の性質を正しく理解し、ほんの少しのコツを知ること」にあります。決して愛好家でなければ扱えない靴ではありません。

この記事では、オーダーメイドと修理の専門店である私たちスピカの職人が、ヌメ革との上手な付き合い方を徹底解説します!

そもそも「ヌメ革」とは?特徴から知る革靴に使う魅力

ヌメ革の革靴の魅力を語る前に、まずは「ヌメ革とは何か」という基本から見ていきましょう!

ヌメ革の正体は、植物でなめした”呼吸する”革

革の工房で、職人が革のエプロンを身につけ、大理石の作業台の上で、裁断されたヌメ革のパーツを丁寧に手で組み立てている。パーツにはブローグ(穴飾り)が施されており、手前には靴作りの金槌が置かれている。手仕事による靴製作の精密な工程を捉えた一枚。

ヌメ革とは、一言でいえば「植物のタンニン(渋)を使って、時間をかけて丁寧になめされた革」のことです。 牛の皮を革製品として使えるようにする工程を「なめし」と呼びますが、そのなめし剤に、ミモザやチェスナットといった植物から抽出されるタンニン成分だけを使うのが、この伝統的な製法の特徴です。

化学薬品を使う近代的な製法(クロムなめし)と違い、植物の力でじっくりとなめされた革は、革本来の繊維質がぎゅっと詰まっていて非常に丈夫。 そして、表面に余計な塗装やコーティングを施さないため、革そのものが持つ自然な風合い、シワや毛穴までがそのまま残っています。

この、いわば「素肌」に近い状態こそが、ヌメ革が「呼吸する革」「生きている革」と言われる所以なのです。 

革好きがヌメ革の革靴を選ぶ3つの理由

では、なぜ多くの革靴好きは、デリケートさを承知の上でヌメ革を選ぶのでしょうか。 その理由は、他の革では決して味わうことのできない、3つの大きな魅力にあります。

理由1. 自分色に育てる「経年変化(エイジング)」の楽しみ

ヌメ革の最大の魅力は、何と言っても「経年変化(エイジング)」にあります。 新品のころは淡いベージュ色だった革が、持ち主の使い方や手入れによって、少しずつ、しかし確実にその表情を変えていきます。

主な変化の要因は、日光(紫外線)、手の皮脂、そして摩擦。 これらの刺激を受けることで、革内部に含まれるタンニンや油分が化学変化を起こし、色が濃くなっていきます。淡い肌色がだんだんと小麦色になり、やがて美しい飴色、さらには深いブラウンへと…。 同時に、使い込むことで革の繊維がほぐれて柔らかくなり、表面からはじんわりと油分が滲み出て、しっとりとした上品なツヤが生まれます。

この変化は一つとして同じものはなく、まさに「自分だけの色と艶に育てる」楽しみ。 数年後、自分の足元で輝く革靴は、単なる製品ではなく、自分自身の歴史が刻まれた唯一無二の相棒となっているはずです。

理由2. 丈夫なのに足に馴染む、極上のフィット感

ヌメ革はその製法上、革の繊維が非常に密に締まっています。 そのため、見た目の繊細さとは裏腹に、とても丈夫で型崩れしにくいという特長を持っています。適切な手入れをすれば、10年、20年と使い続けることができる堅牢さは、長く付き合える革靴の素材として非常に優れています。

そして、もう一つの大きな魅力が「足馴染みの良さ」。

最初は少し硬く感じるかもしれませんが、履き込むうちに持ち主の体温や歩き方の癖によって、革が少しずつ柔らかくなり、足の形に沿って心地よく沈み込んでいきます。 特にインソールにコルクなどを使った本格的な革靴の場合、まるで自分の足の形を記憶したかのようにフィットしていく感覚は、他の素材ではなかなか味わえません。

「最初は少し窮屈だったのに、一ヶ月もすればまるで自分の足の一部になった」 そんな声も多く聞かれます。「頑丈でありながら、履くほどにしなやかに馴染んでいく」。この相反するような二つの性質を併せ持っている点も、ヌメ革が愛される理由です。

理由3. 傷やシミさえも「味」になる

ヌメ革は表面に加工を施していないため、動物が元々持っていたシワや血管の跡(血筋)などが「ナチュラルスタンプ」として残っていることがあります。 均一でないことを欠点と捉えるのではなく、革好きはこれを「生きていた証」として魅力を感じています。

同様に、使っていくうちについてしまう小さな傷やシミでさえも、ヌメ革にとっては物語の一部になります。 最初は気になるかもしれませんが、エイジングが進んで全体の色が濃くなるにつれて、それらの傷は徐々に周囲に溶け込み、目立たなくなっていきます。 むしろ、その傷があることで、革の表情に深みが生まれ、アンティーク品のような風格を漂わせることも少なくありません。傷やシミさえも自分だけの歴史として愛おしく思えるようになる、これこそが、ヌメ革に愛着が生まれる理由なのです。

購入前に知っておきたい|ヌメ革靴の2つの弱点

ここまでヌメ革の魅力を語ってきましたが、もちろん弱点もあります。購入してから後悔しないためにも、避けては通れない2つの大きなデメリットと、その賢い付き合い方について正直にお伝えします。

弱点1. 水に弱く、雨の日は特に注意が必要

ヌメ革の最大の弱点は「水」です。 表面にコーティングがないため、水分を非常に吸収しやすく、例えば雨粒がポツンと落ちただけでも、その部分だけが濃いシミになってしまうことがあります。放置すると「水ぶくれ」といって、革の表面がボコッと膨らんでしまうことも。

また、一度濡れると乾く際に革の油分まで一緒に抜けてしまい、革が硬くなったり、ひび割れの原因になったりもします。 したがって、雨の日に履くのは基本的に避けるのがベターです。 どうしても履く場合は、後述する「防水スプレー」による事前のガードがマストなのです。

弱点2. 傷や汚れが付きやすい「無垢な革」

水と並ぶもう一つの弱点が、「傷つきやすさ」です。 これも表面に保護層がないためで、例えば爪が少し当たっただけでも、白い線のような傷が残ってしまうことがあります。もちろん、硬いものにぶつければ、より深い傷になります。

また、特に色の薄い新品の状態では、汚れも吸収しやすく目立ちやすいです。 例えば、油のついた手で触ったり、色の濃い液体をこぼしたりすると、それがシミとして残りやすいので注意が必要です。

しかし、これらのデメリットも裏を返せば「それだけ素直な革」である証拠。 そして、前述の通り、浅い傷はクリームを塗り込むことでほとんど目立たなくできますし、汚れや傷も長い目で見ればエイジングの一部として革の風合いに溶け込んでいきます。

大切なのは、「ヌメ革はこういうものだ」と理解し、神経質になりすぎず、傷や汚れも含めて育てるという大らかな気持ちで付き合っていくことが大切ですね!

【プロの視点】後悔しないヌメ革靴の選び方3つのコツ

暗い木目調の背景を前に、木製のスツールの上に置かれた、上品な黒い革製のレースアップドレスシューズ一足。

 

ヌメ革の基本が分かったところで、次はいよいよ実践編、「選び方」です。

既製品であれオーダーであれ、最初の一足選びは非常に重要。ここでは、数多の革靴に触れてきた私たちプロの職人が、後悔しないために「どこを見て」「何を重視すべきか」という、他ではあまり語られない視点をお伝えします!

1. 革の個体差は「味」と心得る

お店でヌメ革の革靴を見ると、細かいシワ(トラ)が入っていたり、稲妻のような筋(血筋)が見えたりと、一足一足微妙に表情が違うことに気づくかもしれません。 

これらは決して欠陥品ではありません。 むしろ、それこそが天然皮革である証であり、世界に一つだけの個性なのです。

職人の視点から言えば、あまりに均一でツルッとしすぎた革よりも、多少のナチュラルスタンプがある革の方が、後々面白い経年変化を見せてくれることが多いです。 もちろん、あまりに大きな傷や極端な色ムラは避けるべきですが、「完璧な革」を探すのではなく、「自分が気に入った表情の革」を選ぶというスタンスが大切。

その個体差を“味”として楽しめるかどうかが、ヌメ革と長く付き合えるかどうかの分かれ道とも言えます。

2. 最優先すべきは「自分の足に合うか」のフィット感

どんなに良い革を使っていても、サイズが合っていなければせっかくの革靴が苦痛なものになってしまいます。 特に、履き始めが硬いヌメ革の場合、「そのうち馴染むだろう」と無理なサイズを選ぶのは絶対にやめましょう。
フィッティングで確認すべきポイントは以下の通りです。

  1. 捨て寸(つま先の余裕):靴を履いて立った状態で、つま先に1cm〜1.5cmほどの余裕があるか。指が自由に動かせるかを確認します。
  2. ボールジョイントの一致:足の一番幅が広い部分(親指と小指の付け根を結んだライン)が、靴の最も幅が広い部分と合っているか。ここがずれると、歩くたびに不自然な場所にシワが入り、足を痛める原因になります。
  3. かかとの収まり:靴べらを使ってかかとをしっかりと靴に合わせた状態で、歩いてもかかとが大きく浮き沈みしないか。多少の浮きは馴染む過程で解消されますが、指一本が簡単に入るほど緩いのはサイズが大きすぎます。

試着は必ず両足で行い、できれば夕方(足が少しむくんでいる時間帯)に試すのがおすすめです。 わずかな当たりであれば革が馴染んで解消されますが、指が曲がってしまうほどの圧迫感や、明らかにどこかが強く当たる痛みを感じる場合は、その靴はあなたの足に合っていません。

自分の足の正確なサイズ(足長、足囲)を知り、プロのスタッフに相談しながら、妥協せずに最適な一足を見つけることが、後悔しないための最も重要なポイントです。

3. 長く履くなら「製法」と「デザイン」も重要

もし私たちがお客様に「最初の一足」としてヌメ革靴をご提案するなら、長く愛用できるクラシックな仕様をお勧めします。

  • デザインプレーントウストレートチップといった、飽きのこないシンプルなデザインが最適です。装飾が少ない分、革のエイジングそのものをダイレクトに楽しむことができます。
  • 製法:靴底の交換(オールソール)が可能な「グッドイヤーウェルト製法」を強く推奨します。ヌメ革はアッパー(甲革)が10年以上もつのに、ソールが交換できないと靴自体の寿命が尽きてしまいます。この製法なら、ソールを何度も張り替えながら、革が育っていくのを末永く見守ることができます。
  • ソール:初めての方には、レザーソールのエレガントな雰囲気と、ラバーソールの実用性(滑りにくさ、耐水性)を両立できる「ハーフラバー仕様」も良い選択肢です。レザーソールの前面部分にだけ薄いゴムを貼ることで、弱点を補いながら、革底ならではのしなやかな履き心地も味わえます。

ちなみに、私たちスピカのセミオーダーシューズでは、こうした仕様をお客様の好みやライフスタイルに合わせて自由に組み合わせることが可能です。

早い段階で「プロが勧める本格的なオーダー靴が、このくらいの価格で手に入るのか」という具体的な感覚を持っておくと、既製品を見る目も変わってくるかもしれませんね!

ヌメ革の革靴を育てる手入れ方法|購入直後から始める全ステップ

選び方の次は、いよいよ「育て方」です。 ここからは、あなたのヌメ革靴を美しく、そしてたくましく育てるための手入れ方法を解説します!

暗く落ち着いた雰囲気の中、職人が光沢のあるバーガンディ色の革靴を手に持ち、ブラシで丁寧に磨き上げている様子。手元には靴クリームの瓶も見える。

【STEP1】購入直後が肝心!まず行うべきプレメンテナンス

新品のヌメ革靴はいわば無防備な“すっぴん”の状態。 いきなり外に連れ出す前に、まずはお家で「プレメンテナンス」を施してあげましょう。この一手間が、後々の水シミや汚れのリスクを大きく減らしてくれます。

  1. 日光浴(陰干し)
    まずは風通しの良い室内で、数日間〜1週間ほど靴を休ませてあげます。レースを外し、シューツリー(なければ丸めた新聞紙)を入れて、時々向きを変えながら、柔らかい日光に当ててあげましょう。これにより、革内部の油分が表面にじわりと滲み出て、天然の保護膜のような役割を果たしてくれます。革の色も少しだけ濃くなり、落ち着いた風合いになります。 直射日光に長時間当てると、急激な乾燥で革を傷める可能性があるので注意してください。
  2. 保湿と防水
    日光浴が終わったら、「デリケートクリーム」という水分が主体の優しい保湿クリームを綺麗な布に少量とり、靴全体に薄く均一に塗り伸ばします。これは、革に潤いを与え、乾燥を防ぐための工程です。5〜10分ほど置いてクリームが浸透したら、最後に「フッ素系の防水スプレー」を、靴から20〜30cm離して全体にムラなく吹きかけます。乾いたら2回ほど繰り返すとより効果的です。これにより、革の通気性を保ちながら、表面に水や汚れを弾くバリアを作ることができます。

この「日光浴」「保湿」「防水」というプレメンテナンスを必ず行いましょう。

【STEP2】日々の習慣にしたい基本の手入れ

 基本は、「履いたらブラッシングすること」が重要です。

その日に履いた靴は、帰宅後か翌朝にでも、馬毛のブラシを使って全体を優しくブラッシングしてあげましょう。 目的は、表面に付着したホコリや汚れを落とすこと。ホコリを放置すると、それが湿気を吸って汚れとして定着したり、革の毛穴を塞いで呼吸を妨げたりする原因になります。

力は入れず、靴の表面をなでるように、縫い目やシワの隙間のホコリをかき出すイメージで行ってください。 これだけでも、革のコンディションは良好に保たれ、適度な摩擦で自然なツヤも維持されます。

もし汗をたくさんかいた日や、軽い汚れが気になるときは、ブラッシングの後に柔らかい布で乾拭きすれば完璧です。 頻繁にクリームを塗る必要は全くありません。むしろ、油分の与えすぎは革を弱らせたり、カビの原因になったりもします。 まずはこの「履いたらブラシ」を習慣にすることから始めてみてください。

【STEP3】月に一度のスペシャルケアで革に栄養を

日常のケアはブラッシングだけで十分ですが、1〜2ヶ月に一度はスペシャルケアを施してあげましょう。 乾燥が進む前に、失われた油分と水分を補給してあげるイメージです。

手順は以下の通りです。

  1. 汚れ落とし
    まずは馬毛ブラシで全体のホコリをしっかりと落とします。もし、古いクリームや頑固な汚れが気になる場合は、革用のクリーナーを布に少量つけて、優しく拭き取ります。ただし、強いクリーナーは色落ちの原因になることもあるので、目立たない部分で試してから使いましょう。
  2. 保湿
    次にプレメンテナンスでも使った「デリケートクリーム」で革に水分を補給します。指に直接少量とるか、布にとって、体温で温めながら円を描くように薄く塗り込んでいきます。革がしっとりと潤うのが分かるはずです。
  3. 栄養補給とツヤ出し
    デリケートクリームが浸透したら、次は「乳化性の靴クリーム(無色)」を使い、革に油分と栄養を与えます。米粒2〜3粒程度の少量で片足分です。これを全体に薄く伸ばし、馬毛より少し硬い
    豚毛のブラシで力強くブラッシングして、クリームを革に馴染ませます。
  4. 仕上げ 最後に、余分なクリームを拭き取り、ツヤを出すために、乾いた柔らかい布やストッキングなどで磨き上げれば完了です。

最初は少し難しく感じるかもしれませんが、慣れれば30分もかからない作業です。 革と対話するようにじっくりとケアする時間もまた、革靴の醍醐味の一つですよ。

ヌメ革の手入れ用品、初心者はまずこの3つを揃えればOK

革靴のケア用品は数え切れないほどありますが、ヌメ革の初心者がまず揃えるべきは3つです。

  1. 馬毛ブラシ 日常のホコリ落としに必須。毛が柔らかく、デリケートなヌメ革の表面を傷つけずに手入れができます。まずはこれを一本用意しましょう。
  2. デリケートクリーム 水分が主体の優しい保湿クリームです。油分の強いミンクオイルなどは、初心者が使うとシミや変色の原因になりやすいため、まずはどんな革にも安心して使えるこのクリームから始めるのがおすすめです。
  3. フッ素系の防水スプレー 「守りのケア」の要です。シリコン系と違い、革の通気性を損なわずに水や汚れを弾く効果があります。「フッ素系」と明記されているものを選びましょう。

ヌメ革の革靴でよくあるトラブル解決集|傷・シミ・水濡れ対策

大切に履いていても、予期せぬトラブルは起こるもの。 しかし、正しい知識があれば、慌てずに対処できます。ここでは、ヌメ革靴にありがちなトラブルの原因と、家庭でできる解決策をご紹介します。

ケース1. 浅い傷はクリームで馴染ませる

雰囲気のある薄暗い中で、職人が白い布を指に巻き、光沢のあるブラウンの革靴のつま先に丁寧にクリームを塗り込んでいる手元のクローズアップ。背景には複数のシュークリームの缶がぼやけて見える。

ヌメ革靴に、ひっかき傷が…。 そんな時は、まず落ち着いて傷の深さを確認してください。

表面だけの浅い擦り傷であれば、多くの場合、指の腹で優しく擦り込むだけで目立たなくなります。指の体温と油分で、革の繊維がほぐれて傷が馴染むのです。 それでも気になる場合は、少量のデリケートクリームや靴クリームを塗り込んでブラッシングすれば、さらに傷は周囲に溶け込みます。

一方で、革の表面がえぐれてしまうような深い傷は、残念ながら完全には消せません。 しかし、これもまたヌメ革の面白いところ。無理に隠そうとせず、むしろ「自分だけの勲章」として受け入れてみてください。 履き込んでエイジングが進むと、その傷もまた、革の風合いの一部となり、より愛着の湧くディテールに変わっていくはずです。

ケース2. シミができた時の原因別・応急処置法

ヌメ革にシミができてしまった時も、「慌てて擦らない」が鉄則です。

  • 水シミ(雨ジミ) ポツポツと雨に降られて輪ジミができた場合、その部分だけを濡れた布で拭くのは逆効果。シミが広がるだけです。 正解は、「靴全体を均一に湿らせる」こと。固く絞った濡れタオルで、シミの周りから靴全体を優しく叩くようにして、全体の色が同じになるまで湿らせます。その後、中にシューツリーを入れ、風通しの良い日陰でゆっくりと自然乾燥させると、驚くほどシミが目立たなくなります。
  • 油シミ 食用油などをこぼしてしまうとより厄介です。すぐに革用のクリーナーを布に含ませ、シミの部分をトントンと叩くようにして、油分を布に移し取る作業を繰り返します。完全には取れないことが多いですが、根気よく続ければ薄くすることは可能です。

いずれのシミも、ついてしまったら完全に元通りにするのは困難です。 しかし、これも傷と同様、エイジングが進めば気にならなくなります。「シミも味」と捉える大らかさも、ヌメ革と付き合う上では大切です。

ケース3. 水でびしょ濡れになった時のNG行動と正しい乾かし方

ゲリラ豪雨などで、靴がびしょ濡れに…。 そんな緊急事態に、やってはいけないNG行動があります。これを覚えておくだけでも、最悪の事態は防げます。

  • NG①:ドライヤーやストーブで急速乾燥させる →熱で革が急激に縮み、硬化して元に戻らなくなります。最悪の場合、ひび割れてしまうことも。
  • NG②:濡れたまま放置する →カビの発生原因になります。特に湿気の多い場所での放置は厳禁です。
  • NG③:濡れたまま履き続ける →革が最も弱い状態で負荷をかけることになり、型崩れや革の伸び、ソールの剥がれに繋がります。

正しい対処法は、まず乾いた布で優しく水分を吸い取り、靴の中にシューツリーか新聞紙を詰めて形を整え、風通しの良い日陰で、数日かけてゆっくりと自然乾燥させること。 そして、完全に乾いたら、必ずデリケートクリームで失われた油分と水分を補給してあげましょう。

もっと知りたい!ヌメ革の革靴に関するQ&A

ここまでで、ヌメ革の基本から手入れ、トラブル対策まで一通り解説しました。 最後に、よくある細かな疑問についてQ&A形式でお答えします。

Q1. エイジング(経年変化)を早く進める方法はありますか?

はい、意図的にエイジングを早める方法はありますが、注意も必要です。

一般的には「日光浴」「オイルケア」があります。定期的に日光に当てる時間を増やしたり、油分の多いミンクオイルなどを塗ったりすると、色の変化は早まります。

しかし、急激な変化は革に負担をかけることにも繋がります。 色ムラができたり、オイルの塗りすぎで革がベタついたりと、失敗のリスクも高まります。 基本的には、普段使いの中で自然に変化していく過程を楽しむのが、ヌメ革本来の付き合い方としておすすめです。 「急がば回れ」の精神で、じっくり育てる時間も楽しんでみてください。

Q2. ヌメ革と他の革(クロムエクセル等)はどう違いますか?

革靴に使われる有名な革として、例えば「クロムエクセルレザー」があります。 最大の違いは「なめし方」と「経年変化の仕方」です。クロムエクセルは、タンニンなめしとクロムなめしを組み合わせた「混合なめし」で、さらにオイルをたっぷりと含ませています。 そのため、ヌメ革よりも水に強く、しなやかなのが特徴です。

経年変化もしますが、その変化はヌメ革ほど劇的ではありません。 色が大きく変わるというよりは、履きジワの部分の色が薄くなったり、艶が増したりといった「アジ」が出るイメージです。

どちらが良いというわけではなく、 「劇的な色の変化と、手入れの過程を楽しみたいならヌメ革」 「ある程度タフで、最初からしなやかな履き心地を求めるならクロムエクセル」 といった、好みの問題と言えるでしょう。

Q3. 長期間履かない場合、どうやって保管すれば良いですか?

シーズンオフなどで長期間保管する場合は、「カビ」と「型崩れ」を防ぐことが重要です。

  1. しまう前に必ず汚れを落とし、乾燥させます。ブラッシングでホコリを払い、必要ならクリームで保湿しておきましょう。
  2. 汚れを落としたらシューキーパー(シューツリー)を必ず入れます。型崩れを防ぎ、木製のキーパーなら湿気も吸ってくれます。
  3. 保管場所は、直射日光の当たらない、風通しの良い場所が鉄則です。購入時の箱に入れっぱなしにするのは、湿気がこもりやすいので避けましょう。
  4. 月に一度でも良いので、箱から出して状態を確認し、軽く空気に当ててあげると万全です。

ヌメ革靴は、あなたと共に育つ最高の相棒

濃い木目の床を背景に、ジーンズと赤い靴下を合わせ、光沢のある黒い革靴の靴紐を結んでいる手元のクローズアップ。ファッションにおける細部へのこだわりや、外出前の身支度を整える場面を捉えている。

 

この記事では、ヌメ革の革靴が持つ奥深い魅力と、その育て方について詳しく解説してきました。 少しデリケートなイメージがあったかもしれませんが、正しい知識さえあれば、手をかければかけるほど応えてくれる、最高のパートナーになります。

  • ヌメ革の魅力: 経年変化で自分だけの色と艶に育つ、唯一無二の楽しみ。
  • 後悔しない選び方: 個体差を「味」と捉え、フィット感と長く使える製法を重視する。
  • 育て方の基本: 購入直後のプレメンテと、日々のブラッシングが美しいエイジングの鍵。
  • トラブル対処法: 傷やシミも慌てず、正しい知識でケアすれば「味」に変わる。

当社では、さまざまなシューズ用レザーを取り揃えておりますので、革靴オーダーならぜひ一度、元麻布スピカにご相談くださいませ!