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「これから長く付き合っていける革靴がほしい」そうは言っても、たくさんの革の種類を前にしてどれを選べば良いか迷ってしまうことがありますよね。

カーフ、コードバン、ステアハイド……。 まるで専門用語のカタログを見ているようで、自分にとっての「正解」がどれなのか、判断が難しいと感じるかもしれません。

結論からいうと、後悔しない革靴選びの鍵は、単なるスペック比較ではなく「その革と、どう付き合っていきたいか」という視点を持つことです。

この記事では、革靴修理のプロである私たちが、それぞれの革が持つ個性や「性格」を、職人ならではの本音で語り尽くします!

【素材別】革靴で使われる革の種類一覧

牛革の種類

無地の背景に置かれた、光沢のある黒い本革製プレーントゥ・レースアップシューズ一足。

まずは、革靴の王道ともいえる牛革から見ていきましょう。牛革は、牛の年齢や性別によって、驚くほどたくさんの種類に分かれています。 それぞれの個性豊かな表情を楽しんでください。

カーフスキン|生後6ヶ月以内の仔牛から採れる革

カーフスキンは、生後6ヶ月以内の仔牛から採れる革です。

人間の肌と同じで、若い牛の革ほどキメが細かく、しっとりと柔らかい手触りが特徴です。 繊維構造が非常に細かいため、薄手で軽く、デリケートな素材といえます。その分、表面は非常に滑らかで、磨くと美しい光沢が出やすいことから、高級な紳士靴のアッパー(甲革)によく使われています。

見た目の美しさ、品質の高さは牛革の中でも最高級ですが、柔らかさゆえに傷がつきやすいという側面もあるので注意が必要です。

希少価値が高く、価格も高価になりますが、そのエレガントな佇まいは多くの人を惹きつけます。 経年変化(エイジング)も楽しめるので、大切に手入れをしながら長く付き合っていきたい方におすすめです。

キップスキン|生後6ヶ月から2年の牛から採れる革

キップスキンは、生後6ヶ月から2年くらいまでの中牛の革を指します。

カーフスキンに次いでキメが細かく、滑らかな質感を持っています。 カーフより少し成長しているため、革に厚みと強度が加わり、耐久性が高まるのが特徴です。カーフの繊細な美しさと、成牛の革の丈夫さを、良いとこ取りしたようなバランスの良さが魅力といえるでしょう。

そのため、国産の既成靴では、少し高品質なラインナップでよく使用されています。 価格はカーフスキンよりは少し手頃になりますが、それでも牛革の中では高級な部類です。

ステアハイド|生後2年以上の去勢された雄牛から採れる革

ステアハイドは、生後2年以上が経過した、去勢済みの雄牛から採れる革です。現在、市場に流通している革製品の中で、最も一般的に使われている牛革といえます。

カーフスキンやキップスキンに比べると、表面のキメは少し粗くなりますが、厚手で非常に丈夫なのが特徴です。繊維の密度が全体的に均一なので、品質が安定しており、革靴の素材としてとても扱いやすいという利点があります。 多くのビジネスシューズや日常使いの革靴は、このステアハイドから作られています。

最初は少し硬く感じるかもしれませんが、履き込むほどに足に馴染んでくる、頼もしい素材です。

カウハイド|出産経験のある雌牛から採れる革

カウハイドは、生後2年以上で、出産経験のある雌牛の革です。

ステアハイド(雄牛)と比較すると、革の厚みや強度は少し劣りますが、その分しなやかで柔らかいという特徴があります。キメの細かさはステアハイドと同程度ですが、出産を経験しているため、お腹周りの革が伸びているなど、部位による繊維密度の差が大きい傾向があります。

そのため、靴のアッパー素材としてよりも、面積を広く取れるバッグやジャケットなどに使われることが多い素材です。 軽くて足馴染みが良いので、女性用の靴に使われることもあります。

ブルハイド|生後3年以上の去勢されていない雄牛から採れる革

ブルハイドは、生後3年以上経った、去勢されていない雄牛(種牛)の革です。

非常に厚く、硬く、そして頑丈。 その強度は牛革の中でもトップクラスです。気性が荒いため、革の表面には傷が多く、キメも粗いのが特徴です。

そのため、見た目の美しさが求められるアッパー素材として使われることは稀で、その頑丈さを活かして、主に靴底(アウトソール)や、過酷な環境で使われるワークブーツなどに用いられます。 まさに「縁の下の力持ち」として、革靴の耐久性を支えている革といえるでしょう。

馬革の種類

白いテクスチャのある背景の上に置かれた、シューツリーが装着された光沢のあるダークブラウンの本革製プレーントゥシューズ。

コードバン|馬の臀部(お尻)から採れる希少な革

「革のダイヤモンド」あるいは「革の王様」と称されるコードバンは、馬のお尻の部分から、ごくわずかしか採れない「コードバン層」という高密度の繊維層を磨き上げて作られる非常に希少な素材で、高級紳士靴や上質な革小物に使われています。

その最大の魅力は、ガラスのように滑らかで、奥深い独特の光沢です。繊維が極めて緻密なため、牛革の3倍ともいわれる強度を持ち、厚手でありながらしなやかさも兼ね備えています。

履き込むほどにその艶は増し、他の革では決して味わえない、重厚な経年変化を楽しめますが、水には非常に弱く、雨に濡れるとシミや水ぶくれの原因になりやすいデリケートな一面もあります。

手入れにも専用の道具と知識が必要ですが、その手間をかけるだけの価値がある、まさに特別なパートナーとなりうる革です。

ホースハイド|馬の胴体部分から採れる革

コードバンとして使われる臀部以外の、馬の胴体などから採れる革を総称してホースハイドと呼びます。牛革と比較すると、軽くてしなやかな点が大きな特徴です。

曲げ伸ばしに強く、型崩れしにくいため、身体の動きにフィットするライダースジャケットやフライトジャケットの素材として古くから愛されてきました。

馬は運動量が多く、生前の傷が革に残っていることも多いため、少しワイルドな風合いになるのも魅力の一つです。 近年では、その堅牢さと軽さを活かして、ワークブーツやカジュアルな革靴にも使われています。 流通量は多くありませんが、牛革とは一味違う経年変化を楽しみたい方におすすめの革です。

豚革の種類

ピッグスキン|豚から採れる革

ピッグスキン(豚革)の最大の特徴は、表面に見える毛穴の跡です。この毛穴があるおかげで、他の革にはない優れた通気性を誇りますし、薄くて軽いにも関わらず、繊維構造は非常に緻密で、摩擦にも強く丈夫です。

その機能性の高さから、革靴の中敷き(ライニング)の素材として、非常に多く使われています。 また表面の独特な凹凸模様を活かして、カジュアルなスニーカーやバッグの素材として使われることもあります。

【比較表】革の種類・特徴まとめ

ここまでご紹介してきた革の特徴を、一覧表にまとめてみました。それぞれの革が持つ個性や得意なこと、苦手なことを見比べて、あなたにぴったりの一足探しの参考にしてください!

革の種類 (原料)

耐久性

柔軟性

表面のキメ細かさ

主な用途・印象

価格帯(相対)

カーフ (仔牛)

★★★☆☆ (薄めで傷注意)

★★★★★ (非常に柔らかい)

★★★★★ (極めて滑らか)

ドレス靴全般(光沢上品)

最高級(非常に高い)

キップ (中牛)

★★★★☆ (カーフより強い)

★★★★☆ (柔軟で馴染む)

★★★★☆ (きめ細かい)

ビジネス靴・高級既製靴

高め

ステア (雄成牛)

★★★★★ (厚く頑丈)

★★★☆☆ (コシが強い)

★★★☆☆ (やや粗い)

ビジネス靴・日常靴で最も一般

中程度

カウ (雌成牛)

★★★★☆ (充分丈夫)

★★★★☆ (比較的しなやか)

★★★☆☆ (部位で差あり)

女性靴、大型バッグ・コート生地

中程度

ブル (種雄牛)

★★★★★ (極めて強靭)

★★☆☆☆ (硬く重い)

★★☆☆☆ (粗く傷が多い)

靴底、ワークブーツ用素材

中〜安価

コードバン (馬尻)

★★★★★ (張りと強度)

★★★☆☆ (履くと馴染む)

★★★★★ (ガラスのよう)

高級靴・小物(圧倒的光沢)

最高級(非常に高い)

ホースハイド (馬胴)

★★★★☆ (耐摩耗に強い)

★★★☆☆ (薄く柔軟)

★★★★☆ (滑らかだが傷有)

カジュアル靴・ジャケット

高め

ピッグスキン (豚)

★★★★☆ (摩擦に強い)

★★★★☆ (薄く曲げに強い)

★★☆☆☆ (毛穴目立つ)

靴ライニング・軽量カジュアル

安価

この表は一般的な傾向を示したものです。革のなめし方や仕上げ、個体差によって特徴は変化します。

革靴選びで失敗しないための、3つの判断軸

たくさんの革の種類を見てきましたが、「じゃあ、自分はどれを選べばいいんだろう?」と迷ってしまいますよね。ここからはあなたにピッタリの一足を見つけ出すための「3つの判断軸」をご紹介します!

判断軸1:利用シーン(ビジネスか、休日か)

まず考えたいのが、「その靴を、いつ、どんな場面で履くか」ということです。

フォーマルな場面で履くなら、キメの細かいカーフスキンキップスキンが王道です。 一方で、休日のカジュアルな服装に合わせるなら、少しラフな表情を持つステアハイドや、独特のシワ模様が魅力のゴートスキン(生後6か月以上の成ヤギの革、ワークブーツに似合うホースハイドなど、選択肢はぐっと広がります。

また、天候を気にせず履ける実用性を重視するなら、傷や雨に強いグレインレザー(型押し革)も有力な候補になります。 まずは「オンタイムか、オフタイムか」を明確にすることが第一歩です。

判断軸2:見た目の好み(ドレッシーな艶か、味のあるシボか)

次に大切なのが、「どんな見た目の靴が好きか」という、あなた自身の感性です。

鏡のように磨き上げられた、ドレッシーで艶やかな革靴に心惹かれるなら、繊維が緻密なカーフスキンや、宝石のような輝きを放つコードバンがその筆頭です。 もし、究極に柔らかくエレガントな表情を求めるなら、婦人靴などに使われるキッドスキン(生後6か月以内の子ヤギの革)もその滑らかな質感が魅力的です!

判断軸3:付き合い方(手入れの手軽さか、育てる楽しみか)

最後の判断軸は、「その靴と、これからどう付き合っていきたいか」という価値観の部分です。

「メンテナンスは手軽に済ませたい」という実用派なら、雨や汚れに強く、傷がつきにくい加工が施されたガラスレザーや、顔料仕上げのステアハイドが向いています。

一方で、革靴の醍醐味である「育てる楽しみ」を味わいたい方もいるでしょう。 その場合、経年変化のスタイルによって、おすすめの革が変わります。 例えば、手入れを重ねることで重厚な「艶」が増していく変化が好きならコードバン。 時間と共に革の「色が美しい飴色に深まっていく変化を楽しみたいならタンニンなめしの革、といった具合です。

どちらの「育ち方」があなたの心に響くか。 ライフスタイルに合った付き合い方ができる革を選びましょう!

【結論】あなたのタイプ別・おすすめの革はこれ

3つの判断軸でご自身の好みやライフスタイルがイメージできたでしょうか。 それでは、いよいよ結論です。 あなたのタイプ別に、私たち職人が「これだ」と断言できる革を、それぞれ一つだけご紹介します。

木目の美しい床の上に2列に整然と並べられた、多彩なカラーバリエーションの紳士用革靴。ブラウン、ブラック、ネイビー、バーガンディ系の色合いがあり、スムースレザーやクロコダイル型押しのものなど、素材も様々。

<上品さ・高級感を求めるなら>

結論は「カーフスキン」です。

誰の目にも明らかな「王道の品格」を求めるなら、選ぶべきはカーフスキンです。仔牛から採れる若々しくキメの細かい革は、磨き上げることで濡れたような上品な光沢を放ちます。まさに「正統派のエレガンス」と呼ぶにふさわしいその佇まいは、ビジネスやフォーマルなど、どんな場面でもあなたの足元を格上げし、確かな自信を与えてくれるでしょう。最初に手にする本格的な一足として、これ以上ない選択です。

<耐久性・タフさを重視するなら>

結論は「ステアハイド」です。

天候や場所を気にせず、毎日ガシガシ履ける「頼れる相棒」が欲しいなら、最も信頼できるのがこのステアハイド。厚手で丈夫なその革は、世界で広く流通している事実が実用性の高さを物語っています。最初は硬くても、履き込むほどに足に馴染み、気兼ねなく履き潰せる道具としての魅力と安心感が、この革の最大の価値。日常のあらゆるシーンで、あなたの活動を力強く支えてくれます。

<自分だけの経年変化を楽しみたいなら>

結論は「コードバン」です。

革靴の醍醐味である「育てる喜び」を深く味わいたいあなたには、迷わずコードバンをおすすめします。「革のダイヤモンド」と称されるこの革の真価は、履き始めてから発揮されるもの。愛情を込めて手入れを重ねることで、内側から発光するような、重厚で奥深い艶が育っていきます。手間をかけることさえも愛おしくなる。そんな、革と長く付き合っていく唯一無二の体験を約束してくれるのが、コードバンです。

最適な革選びで豊かな革靴ライフを

この記事では、革靴に使われるさまざまな革の種類と、ご自身の価値観に合った革を選ぶための3つの判断軸について解説してきました。

大切なのは、カタログスペックを覚えることではなく、それぞれの革が持つ個性や物語を知り、心から「これが好きだ」と思える一足に出会うことです。

  • 革靴選びはパートナー選びと同じ。 まずはそれぞれの革の「性格」を知ることから始めましょう。
  • 「利用シーン」「見た目」「付き合い方」 この3つの軸で考えると、自分に合う革が見えてきます。
  • 上品さならカーフ、タフさならステア、育てる楽しみならコードバンが、それぞれの代表格です。
  • 知識はあくまで道具。 最終的には、ご自身が愛着を持てるかどうかが一番大切です。
  • 迷ったらプロに相談するのも、失敗しないための賢い方法です。

革靴は、単なる履物ではありません。手入れを重ねることで、あなたの足に馴染み、共に時を刻み、世界に一つだけの表情に育っていく、まさに「相棒」のような存在です。この記事を参考に、ぜひあなただけの最高のパートナーを見つけてください。

もし、その大切なパートナーとの付き合い方で困ったことがあれば、いつでもご相談ください!