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革靴を選んでいると「ステアハイド」や「カーフ」といった専門用語を目にするものの、一体何が違うのか、自分の使い方にはどちらが合っているのか、迷ってしまうことはありませんか。

どうせなら、手入れをしながら長く使える、愛着の湧く一足を選びたい。多くの方がそう願っているはずです。結論からいうと、その願いを叶える鍵は、革の特性を正しく理解し、ご自身の価値観に合った一足を見極めることにあります。

この記事では、革靴のもっとも基本的な素材である「ステアハイド」のすべてを、オーダーメイド工房の職人が徹底解説します!

この記事を読めば、こんな疑問が解決します!

  • そもそもステアハイドとは?
  • 他の牛革の違いは?
  • ステアハイドの革靴はどうメンテナンスしたらいい?

そもそも「ステアハイド」ってどんな革?

明るい無地の背景に置かれた、光沢のある黒いスムースレザー製プレーントゥ・ダービーシューズ一足。

数ある革靴の素材の中でも、もっとも広く使われているのが「ステアハイド」です。まずは、この牛革の王道ともいえる素材の基本から見ていきましょう。

ステアハイド:去勢された「雄牛の革」

ステアハイドとは、生後3〜6ヶ月の間に去勢され、2年以上育った雄牛から採れる革のことを指します。食肉用の牛の副産物であるため流通量が非常に多く、市場で「牛革」と呼ばれる革の多くは、このステアハイドを指します。

そんなステアハイドには、革靴の素材として最適な、大きく3つの特徴があります。

ステアハイド革が選ばれる3つの特徴

特徴1:厚みがあって耐久性が高い

大人の牛の革なので繊維構造が密で、厚みがあり非常に丈夫です。

日々の歩行による負荷や、ちょっとした擦れにも強く、型崩れしにくいという頼もしさがあります。長く履きつづけるための「タフさ」が、ステアハイドの第一の魅力です。

特徴2:革質が安定していて扱いやすい

そもそも「なんで去勢するの?」というところにも繋がるのですが、去勢されているため気性が穏やかで、牛同士の喧嘩などによる傷が少ないのが特徴です

そのため、一枚の革の中でも厚みや質が均一で、製品を作る際に無駄なく使うことができます。この品質の安定性が、多くの革靴に採用される理由の一つです。

特徴3:メンテナンスが容易で長く使える

生後2年以上の雄牛の革は、丈夫で表面がしっかりしているため、基本的なお手入れだけで良いコンディションを保つことができます。

革用のクリームも均一に浸透しやすく、初心者の方でも扱いやすいのが嬉しいポイント。適切なケアをつづければ、何十年と使いつづけることも可能です。

【職人コラム】良い革を見極める「プロの目」も必要!

同じステアハイドでも、その品質は一枚一枚異なります。私たち職人は一足の靴を作る前に、まずその革とじっくり向き合うことから始めます

プロの目はまず「傷の有無と場所」を厳しくチェックします。生きていた証である傷やシワは、靴のどの部分に使えば目立たないか、あるいはデザインの一部として活かせるかを見極めます。

次に、「繊維の質感や厚みの均一性」を手の感触で確かめます。一枚の革の中でも、背中に近い部分は丈夫なので靴のつま先や甲に、お腹に近い柔らかい部分は履き口周りにと、適材適所で使い分けることで、靴の耐久性と快適性を両立させるのです。

そして、左右のパーツの風合いが揃うように裁断することも重要です。完成した靴が美しく調和しているか。その仕上がりを想像しながら革を選ぶのも、職人の腕の見せ所です。革の「格」を見抜き、そのポテンシャルを最大限に引き出す。この見極めがあって初めて、最良の一足が生まれるのです。

ステアハイドと他の牛革の種類について

シボのある大きな一枚のブラウンレザーを背景に、ブラウン、グレー、シルバー、レッド、ベージュなど、カラーバリエーション豊富なレザーの生地サンプルが扇状に広げられている。

ステアハイドの魅力をご理解いただいたところで、他の代表的な牛革とも比較してみましょう。それぞれの特徴を知ることで、ステアハイドのバランスの良さがより一層際立ちます。

カーフスキン|繊細で美しい最高級の革

生後6ヶ月以内の仔牛から採れる革で、牛革の最高級品とされます。

キメが非常に細かく、吸い付くようになめらかな手触りが特徴です。薄手でデリケートなため、耐久性ではステアハイドに劣りますが、その美しさと履き始めからの足当たりの良さは格別。特別な一日のためのドレスシューズなどに使われます。

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キップスキン|美しさと強さを両立したバランス型

生後6ヶ月から2年未満の牛の革で、カーフスキンとステアハイドの中間的な性質を持ちます。

カーフに次ぐキメの細かさと、ステアハイドに近い強度を兼ね備えており、美しさと実用性のバランスに優れています。中〜高級価格帯のビジネスシューズによく採用される、まさに「いいとこ取り」の革です。

カウハイド|ステアハイドより薄くしなやか

出産を経験した生後2年以上の雌牛の革です。

ステアハイドに比べて薄く、柔らかくしなやかなのが特徴。足馴染みが良い反面、部位による質の差が大きく、型崩れしやすい側面もあります。その柔軟性を活かし、レディースシューズや履き心地のソフトさが求められる靴に使われることがあります。

<<公開後、カウハイドの記事へ内部リンク>>

ブルハイド|もっとも厚く頑丈なタフ素材

生後3年以上の去勢されていない雄牛の革。

牛革の中でもっとも厚く、頑丈で、非常にタフな素材です。しかし、気性が荒いため傷が多く、キメも粗いため、一般的な革靴のアッパーに使われることは稀。その圧倒的な耐久性を活かし、ワークブーツのソール(靴底)など、特殊な用途でその真価を発揮します。

【一覧比較】ステアハイドと他の牛革の種類

種類

年齢

特徴(キメ)

特徴(厚み)

特徴(柔らかさ)

主な用途

価格帯の目安

カーフスキン

生後6ヶ月以内

細かい

薄い

非常に柔らかい

ドレスシューズ、高級革小物

高価

キップスキン

6ヶ月~2年未満

やや細かい

やや薄い

柔らかい

中~高級ビジネスシューズ

やや高価

ステアハイド

2年以上(去勢雄)

標準

厚い

やや硬い

ビジネスシューズ、ブーツ

標準

カウハイド

2年以上(出産雌)

やや粗い

やや薄い

しなやか

レディースシューズ

標準

ブルハイド

3年以上(雄)

粗い

最も厚い

硬い

ワークブーツのソールなど

安価

【職人が解説する】革靴をより魅力的にするには?

これまで素材としてのステアハイドの魅力をお伝えしてきましたが、一足の素晴らしい革靴が生まれるためには、もう一つ欠かせない要素があります。

それは「製法」です。良い素材と良い製法が掛け合わさって初めて、革靴は真の価値を発揮します。

魅力を引き出す「グッドイヤーウェルト製法」

高級紳士靴の代名詞ともいえるのが、「グッドイヤーウェルト製法」です。これは、アッパー(甲革)とアウトソール(本底)を直接縫い合わせず、「ウェルト」と呼ばれる細い革を介して二重に縫い付ける、複雑で手間のかかる製法です。

この製法には、以下のような大きなメリットがあります。

修理しながら長く履ける

ソールがすり減っても、ウェルトから下を丸ごと交換できるため、アッパーの革が元気な限り何十年と履きつづけることができます。

履き込むほど足に馴染む

内部に詰められたコルクが、履く人の足の形に合わせて沈み込み、まるでオーダーメイドのようなフィット感を生み出します。

堅牢で型崩れしにくい

複雑な構造が靴全体をしっかりと支え、長年の使用でも美しいフォルムを保ちます。

確かに、履き始めは少し硬く感じるかもしれません。しかし、ステアハイドのような耐久性のある革と組み合わせることで、そのポテンシャルは最大限に引き出されます。「良いものを長く使う」という価値観を、まさに体現した製法といえるでしょう。

関連ページ:『グッドイヤーウェルト製法|オーダーメイド革靴なら元麻布スピカ』

価格の理由を知る

良い革靴は決して安くはありませんよね。しかし、その価格には明確な理由があります。

素材の質

同じステアハイドでも、傷が少なく繊維が密なトップグレードの革は、当然ながら高価になります。

手間と技術

グッドイヤーウェルティド製法のように、熟練の職人が多くの時間をかけて作り上げる靴には、その技術と手間への対価が含まれています。

アフターサービス

良い靴は、売って終わりではありません。修理やメンテナンスといった、購入後のサポート体制も価値の一部です。手頃な価格の靴は、素材や作りが簡素で、修理も難しく、結果的に「使い捨て」になりがちです。

一方で、丁寧に作られた一足は、手入れをしながら長く履きつづけることができ、結果的に経済的であることも少なくありません。それは単なる「もの」としての価値を超え、あなたの足を守り、共に時を刻む「パートナー」としての価値を持つのです。

スピカでは「購入後のアフターフォロー」まで実施

高品質なオーダーメイド革靴は、適切なメンテナンスで一生履き続けられます。スピカではご購入後の無料靴磨きや修理割引といった手厚いサポートで、その「育てる」過程を支えます。このようなサービスは、既製靴にはないオーダーメイドならではのポイントといえます。

ここで最もお伝えしたいのは、「初期費用」だけでオーダーメイド革靴の価値を判断しないでほしいということです。安価な既製靴を数年で何度も買い替えることを考えれば、長期的に見ればオーダーメイドの方がコスパがいいのはもちろん、革靴は「愛着」をもって一生履き続けてほしい。そういった想いからアフターフォローを実施している店舗も少なくありません。

オーダーメイド革靴の相場や値段に関するより詳しい内容については、下記にて紹介していますので、あわせてご覧ください!

<<公開後、革靴相場/革靴 値段の記事に内部リンク>>

オーダーシューズという選択肢も!

私たちスピカはこの「価格以上の価値」を、一人でも多くの方に実感していただきたいと考えています。お客様のご予算やご要望に応じて、最適な一足をご提案できるよう、いくつかの選択肢をご用意しています。

セミオーダーシューズ(65,450円~)

 既成の木型をベースに、革の種類やデザインなど650通り以上の組み合わせから、あなただけの一足をカスタマイズできます。もちろん全モデル、グッドイヤーウェルト製法です。

プレミアムラスト・オーダーシューズ(約15万円~)

お客様専用の木型を作成し、フルオーダーに近い究極のフィット感を実現します。

ビスポーク(フルオーダー)シューズ(40万円以上~)

デザインも木型もゼロから作り上げる、完全オーダーメイド。世界に一つだけの靴を形にします。

どのプランをお選びいただいても、ご購入後の靴磨きはいつでも無料、修理代金も15%オフという「永久メンテナンス保証」をお付けしています。それは、私たちがお客様の靴の一生に責任を持つという思いの証です。

スピカのオーダーシューズについてはこちらのページをご覧ください!

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東京・港区にある革靴オーダーメイド・オーダーシューズ専門店、元麻布スピカ(Spica)。究極の「ビスポーク(フルオーダー)」、職人技と機械を融合した「プレミアムラストオーダーシューズ」、650通りから選べる「セミオーダー」があります。

ステアハイド製革靴の「選び方」と「育て方」

暗い色の木の床を背景に、人物が腰を下ろし、光沢のある黒い革靴を履いている足元の様子。

さて、ここからは実践編です。これまでの知識を活かして、あなたに最適な一足を選び、長く愛用していくための具体的な方法をご紹介します。

失敗しないための3つの選び方

数あるステアハイド製の革靴の中から、後悔しない一足を選ぶためには、3つのポイントを押さえることが大切です。

サイズとフィット感を最優先する

どんなに良い革靴も、足に合わなければ意味がありません。

特に革がしっかりしているステアハイドは、フィット感が重要です。試着の際は、つま先に少し余裕があるか、幅や甲が窮屈でないかをしっかり確認しましょう。「フィット9割、デザイン1割」くらいの気持ちで、履き心地を最優先していただくといいでしょう!

用途とデザインを明確にする

ビジネスシーンで毎日履くのか、休日の特別な一足か。

あなたのライフスタイルを想像してみてください。雨の日が多いならラバーソール、経年変化を楽しみたいなら茶系の革など、用途に合わせて最適なデザインや仕様を選ぶことで、その靴は真の「相棒」となります!

革質と作りを自分の目で確かめる

同じステアハイドでも、品質には差があります。

不自然に光りすぎていないか、革にハリとしなやかさがあるか、縫製は丁寧か。少し意識して見るだけで、その靴が丁寧に作られているかどうかが分かってきます。信頼できるメーカーの、作りの良い靴を選ぶことが、長く付き合うための秘訣です!

長く愛用するためのメンテナンス方法

お気に入りの一足を手に入れたら、ぜひ愛情を込めて手入れをしてあげてください!ここからはステアハイド靴のメンテナンス方法について詳しく解説します。

購入後の初期メンテナンス

新品の革靴は、履き下ろす前に一度、革用のクリームで保湿と栄養補給をしてあげましょう。これにより、革が乾燥から守られ、傷や汚れがつきにくくなります。

日常的な手入れと保管

一番大切なのは、履いた後にシューツリー(シューキーパー)を入れて、ブラッシングで埃を落とすことです。これだけで、型崩れを防ぎ、革の良い状態を保つことができます。そして、1日履いたら1日は休ませる「ローテーション」を心がけることで、靴の寿命は格段に延びます。月に一度くらい、靴クリームで油分を補給してあげれば完璧です。

「経年変化(エイジング)」について

手入れを重ね、履き込んでいくうちに、ステアハイドの革靴はあなただけの特別な表情が出るようになります。

茶系の革は徐々に色が深まり、黒い革は内側から輝くような艶を放つようになります。履きジワや小さな傷さえも、その靴があなたと共に歩んできた歴史を物語る「パティーナ(古艶)」となり、新品の時にはなかった風格が生まれるのです。

ステアハイド製の革靴は、使うほどに革が育ち、自分だけの一足になります。その過程を楽しむことができるのは、他では味わえない特別な喜びです。ぜひ、その体験をしてみてください。

まとめ:「一生モノの履き心地」をステアハイド革靴で

この記事では、革靴の基本となるステアハイドの魅力から、他の革との違い、そして価格の裏にある価値に至るまで、職人の視点から解説してきました。

ステアハイドは、日々のビジネスシーンから休日のカジュアルまで幅広く活躍する、まさに革靴の王道です。その本当の価値は、グッドイヤーウェルト製法のような優れた作りと掛け合わさることで、最大限に引き出されます。

  • ステアハイドは耐久性・品質・コストのバランスが取れたもっとも実用的な牛革
  • 良い革靴の価値は、良質な素材と、修理しながら長く使える製法で決まる
  • フィット感を最優先で選び、適切に手入れをすれば、革は美しく育っていく

革靴選びはこうした背景を知ることで、単なる「買い物」から、自分だけの「相棒」へ育てるという、豊かな体験へと変わります。

私たちオーダーメイド革靴工房スピカは、お客様一人ひとりの足に完璧にフィットし、修理を重ねながら生涯を共にできる、そんな特別な一足をお作りしています。

少しでも革靴に興味を持っていただけたら、ぜひ一度当社にご相談いただけると幸いです!

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