Spica magazine

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背景にある物語を想像し、メンテナンスと向き合う。職人・岡井晋吾の思い。

#革小物が繋ぐ

背景にある物語を想像し、メンテナンスと向き合う。職人・岡井晋吾の思い。

2021/09/15

 

靴やバッグなどの革製品のメンテナンスを請け負うSpicaには、日々、さまざまなお客様が足を運ばれます。傷を目立たなくしてほしい、褪せてしまった色合いをよみがえらせてほしいなど、リクエストはさまざまです。

 

それに応える一人が、長年Spicaで働く革修理職人・岡井晋吾。その腕の確かさから、大勢のお客様に信頼されています。今回はそんな岡井の革製品の修理に対する思いについて聞きました。

 

数百万円のバッグをメンテナンスするプレッシャーと培った経験。

 

 

「Spicaは地域に根付いた革製品専門の修理工房です。東京・麻布十番という土地柄、いわゆるメゾンブランドと呼ばれる高級バッグを持ち込まれるお客様も大勢いらっしゃいます。この土地でなければ手にできないような非常に高額な革製品を前にすると緊張もしますが、職人として貴重な経験を積める、とも感じているんです」(岡井)

 

時に数何百万円もするようなハイブランドの革製品のメンテナンスを担当するのは、職人にとってプレッシャーを感じる反面、腕が鳴る瞬間とも言えるでしょう。

 

「たとえば、一度色を乗せてしまうと、もうやり直しができません。無理に落とそうとすれば、革が傷んでしまう。だからこそ常にプレッシャーは感じています。でも、それは金額の高低とは無関係。仮に数千円のバッグだったとしても、僕ら職人がやれることは変わらないんです。むしろ意識しているのは、トータルでのバランスです。単純に傷や染みを消せばいい、というわけではない。修理した箇所が浮いてしまえば、製品の雰囲気が損なわれてしまう。だからこそ僕は、お客様とのコミュニケーションを大切にしています。お客様が求めていることを汲み取り、満足していただけるよう最善の方法をご提案するんです」(岡井)

 

革製品には一つひとつお客様だけの“物語”がある

 

 

革製品というものは、きちんと手入れを施し、大切に使えば何十年ももつもの。だからでしょうか、Spicaには深い思い入れのこもった製品も多く持ち込まれます。

 

「祖母の代から使っていて受け継いだ、というバッグを持ち込まれたお客様がいらっしゃいました。もうボロボロになってしまっているけど、どうしても使いたいと。そういうバッグは、パッと見は古びて見えてもとても格好いいんです。それを綺麗にしすぎてしまうと、せっかくの風合いも消えてしまう。そこで雰囲気を活かした修理の方法を提案しました」(岡井)

 

岡井が心がけているのは、一つひとつの革製品と向き合うこと。ときにはその背景にある物語にも思いを馳せます。

 

「男性のお客様で多いのが、海外出張で買ったバッグを修理してほしいというご依頼です。もう二度と同じものは手に入らない分、愛着が深いようで。そういうお客様にとって、革製品は“仕事の相棒”のようなもの。毎日のように持ち歩くバッグなんて、特にそうですよね。だから、こちらも丁寧にメンテナンスします。とはいえ、新品同様にするのは限界がある。傷も味のひとつとして受け止めてもらえるよう、それを活かした手入れを施すんです」(岡井)

 

どこまでも真摯。岡井にはそんな形容が似合うかもしれません。仕事に対するその姿勢は高い評価をいただいており、リピーターとなるお客様も多いと聞きます。

 

「革製品は頻繁に修理するものではないので間隔は空いてしまいますが、数年前に担当したものを改めて持ち込まれるお客様もいるんです。それを手にした瞬間、『あぁ、あのとき修理したバッグだ』と思い出がよみがえります。修理って、仕上がりがイメージしづらいと思うんです。マニュアルがないので、最終的にどうなるのかは想像できない。それでもリピーターになってくださるということは、前回の仕上がりに満足してもらえて、こちらを信頼してくださっているということ。職人としてとてもうれしいですし、そういったお客様の反応がなによりも原動力になっています」(岡井)

 

愚直なまでに真っ直ぐな職人は、今日も工房でお客様の物語のある革製品を手に、静かな汗を流しています。次回は岡井の革製品職人になったきっかけを聞きます。

 

 

取材・文 五十嵐 大

profile:ライター、エッセイスト。1983年、宮城県生まれ。2020年10月、『しくじり家族』(CCCメディアハウス)でデビュー。他の著書に『ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと』(幻冬社)がある。

twitter:@igarashidai0729

 

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