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相棒

2009.08.07|その他の話

 今日は職人の大切な相棒のはなし。
 10年ほど昔、私がこの靴業界に入ったときに一番初めに教えられたことは 「包丁を研ぐ」 だった。 料理人と同じ様に、靴職人の世界でも 「包丁」 が一番大事だと教えられ、丸1日ずっと砥石と格闘していた覚えがある。 今でも精神を集中し、力を抜き、必要な部分だけ力を入れて研ぎに向かう。
 切れない包丁ほど危険なものはなく、怪我したり、靴を傷つけたりする上に、切れない包丁では美しい断面も出ず無駄に時間もかかる。
 あれから10年、現在の相棒たちがこちら。

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なんでこんなにあるの? と言う方もおられるだろうが、これでも一部で、それぞれに専門の役割がある。
 たとえば、製甲・断ち、製甲・漉き、底付け・断ち、底付け・漉き、底付け・芯漉き and more… といった具合だ。 素材に含まれる油分の量によっても変える場合がある。
 例えば 「ドブ起こし専用」 にしているものもある。 縫い糸を隠して美しくかつ丈夫にするために底革の表面1枚(1〜1,5ミリくらい)を切ってめくる作業だが、非常に難しい。 根気と思い切りと切れる包丁が揃わないと、無残な状態で目も当てられなくなる。

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で、現物がこちら。

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 この包丁の特徴は 鋼に粘りがあるために全体的に薄くしなやか かつ鋭く、全体的に幅がある。 この包丁は京都の 「有次」(アリツグ) のもの。 錦市場にあるとても有名な料理道具屋だが、このようなものも時折店頭に並ぶことがある。 ちなみに価格は通常の2〜3倍はする。

 他には先が丸くなった 「丸包丁」 というものもある。  本当にごく一部の特殊な工程にしか使わないが、この包丁のために専用のくぼんだ砥石を自作せねばならない。
 あとは

RIMG0412.jpg

 このような 「切り出し」 も使う。 ちなみに左が甲革用、右が底付け用。
 ここまで来てお解り戴けただろうが、用途により分けるとはいっても、専用に分けられて売っているわけではない。 見て、触って、使ってみて各自が決めるのだ。 もちろんある程度の経験を重ねれば解ってくることもあるのだが、初めは甲革の漉きに使っていたものが1年後には底付けに向くように変わる場合もある。 なぜかというとこの包丁、正式には 「和包丁 革断ち用」 言い、日本刀造りと同じで鋼と軟鉄を併せ打ち鍛えて作られる。 よって、一振りの包丁の中にも様々な状態が混在するのだ。
 ちなみに海外で使われている洋包丁(トリンチェットという切り出しとカッターの中間のようなもの)も試したことはあるのだが、和包丁に比べるとやはり切れ味が…。 残念ながら私には合わなかったようだ。
 そしてこの包丁、基本的には使ったら研ぎ、物によっては毎日研ぐことになる。 結果、左の長さが2年弱で右のようになる。

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 右の包丁くらいになると怖いくらいの切れ味になるが、残念ながらもう肝心の鋼が無くなってしまった部分もあり、そろそろ引退させねばならない。 お寺にて道具供養をお願いするのだ。 何年も付き合ってもらった相棒には、それくらいの敬意を持ちたいと思う。
 現在使っているものも含めてだいたい30振り弱の包丁達と付き合ってきた。 もちろん靴職人の道具は包丁だけではない。 すべての道具〜相棒に感謝、感謝である。

 

 たなか

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