革靴の傷みは外側から進むものだと思われがちです。
ですが、私たちが工房でお預かりする靴を見ていると、そうとも言えません。
表側はきれいに磨かれているのに、中を覗くとかかとの内側が破れ、芯材が見えてしまっている。そういう一足が夏の終わりから秋にかけて増えます。
靴下が引っかかる。かかとが妙に緩く感じる。脱いだときに人の目が気になる──。
この、かかとの内側の破れにははっきりした原因があります。そして、多くの場合は直せます。
本記事ではこの部位が何のためにあり、なぜ夏に傷みが進むのか、そしてどう対処するのかを、修理を手がけている立場からお伝えします。
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かかと内側(カウンターライニング)の役割
- 夏に内装の傷みが進む理由
- 放置した場合に起きること
- 自分で補修する場合の限界と、工房での修理方法
かかとの内側には、名前と役割があります

革靴のかかとの内側に張られた革を、カウンターライニング(腰裏)と呼びます。
その下にはかかとの形を保つための芯材が入っています。カウンターライニングはこの芯材を覆い、足のかかとと直接触れる面をつくる部材です。
この部材が担っている3つの仕事
- かかとを包み、足が靴の中で前後に動かないよう保持する
- 足と芯材のあいだの緩衝材となり、当たりを和らげる
- 汗を受け止め、内部へ広がるのを抑える
つまり、履き心地とホールド感を左右する、かなり重要な部材です。それでいて、外からは見えない場所にあるため、傷んでいることに気づくのが遅れやすい。
職人の知恵袋💡
表側をどれだけ丁寧に磨かれている方でも、内装のケアまで手が回っている方は少ないものです。私たちが靴をお預かりして、まず中を覗くのはカウンターライニングにこそ、その靴がどう履かれてきたかの記録を正直に残しているからです。
なぜ、夏に「傷み」が進むのか

カウンターライニングの傷みにはいくつかの原因が重なります。そして、そのほとんどが夏に強まります。
原因①|汗の塩分による、革の硬化
汗には塩分が含まれます。革が汗を吸い、乾く。これを繰り返すと、革の内部に塩分が残り、革は少しずつ硬くなっていきます。
硬くなった革はしなやかさを失い、摩擦に弱くなります。夏に大量の汗を吸ってしまった内装は、秋には摩耗が進みやすい状態になっている、ということです。
原因②|薄手の靴下・素足に近い着用による摩擦の増加
夏は靴下が薄くなります。浅履きのものや、素足に近い状態で履く方も増えます。
靴下は足と靴のあいだの緩衝材です。これが薄くなれば、そのぶん摩擦は直接、内装の革にかかります。
原因③|湿った状態での着用
汗で湿った革は乾いているときよりも強度が落ちます。その状態で歩行の摩擦を受け続けると、摩耗の速度が上がります。
湿気そのものへの対処についてはこちらの記事でまとめています。 会議で靴を脱ぐシーン、足の臭いが気になって冷や汗をかいた経験はありませんか。
革靴を履いていると足が蒸れて、どうしても不快ですよね。実は、革靴の蒸れには明確な原因があり、正しく対策すれば確実に改善できます。
本記事では、これまでさまざまな革靴と向き合ってきたプロが、蒸れる原因から効果的な対策まで
革靴蒸れは“履き方”が問題⁉︎靴職人が教える蒸れない・臭わないケア方法!
原因④|靴べらを使わない脱ぎ履き
そして、意外にこれがいちばん大きいかもしれません。靴べらを使わず、かかとを押し込むように履く癖があると、その一回ごとに内装は強く擦れます。
夏は脱ぎ履きの回数そのものが増える季節です。だからこそ、この癖の影響が出やすくなります。
大切な革靴を長く履き続けるために
革靴はスニーカーとは違い、部品ごとに分解できる作りになっているため、修理しながら履けば物によっては10年以上履き続けることもできます。
しかし修理には当然お金が掛かるので、できるなら修理をあまりせずに履き続けたいところ。そのためには日頃の扱い方が大切になってき
大切な革靴を長く履くために、日頃から気をつける7つのこと
放置すると何が起きるか

内側の破れは見た目の問題だけで済みません。段階を追って、実際に起きる現象をお伝えします。
▸ 第1段階|表面が擦れ、毛羽立つ
この段階なら、補修は簡単です。費用も期間も、もっとも軽く済みます。
▸ 第2段階|革が破れ、芯材が見える
靴下が引っかかり、破れやすくなります。露出した芯材が足に直接当たり、痛みを感じることもあります。
▸ 第3段階|芯材そのものが摩耗・変形する
かかとのホールドが失われ、歩くたびに足が靴の中で動くようになります。この動きは甲の革の余計なシワや、ソールの偏った減りにもつながります。
▸ 第4段階|かかとの形が崩れる
ここまで来ると、修理の範囲が大きくなり、費用も上がります。場合によってはかかと周りの再構築が必要になります。
職人の知恵袋💡
内装の破れを早く見つけていただければ、驚くほど軽い修理で済みます。逆に、履けなくなるまで放置されたものはどうしても大がかりになります。気づいた時点でご相談いただくのが、いちばん経済的です。
自分で補修できるのか?という問いへの答え

市販の補修シートを使えば、ご自身で対処することも可能です。ただ、率直に申し上げると、向いている場合と向いていない場合があります。
ご自身での補修が向いている場合
- 破れが小さく、表面の擦れにとどまっている
- 普段履き用の靴で見た目の完成度は求めない
- 応急処置として、当面しのぎたい
プロに任せたほうがよい場合
- 芯材が見えている、または芯材まで傷んでいる
- 大切にしている一足、長く履きたい一足である
- 両足とも、あるいは広範囲に破れている
- かかとのホールド感が明らかに落ちている
市販の補修シートは接着で貼り付ける構造のため、汗と摩擦が集中するこの部位では時間が経つと剥がれることがあります。
剥がれた接着剤が革に残ると、その後の修理がかえって難しくなる場合もあります。
応急処置としては有効ですが、長く履きたい一足であれば、最初から縫い付けによる修理を選ぶほうが結果的に長持ちします。
工房でのよく対応している修理は2通りあります

元麻布スピカでは、状態に応じて2つの方法をご案内しています。
方法①|部分的な当て革(パッチ)
破れた箇所に、新しい革を当てて縫い付ける方法です。傷みが局所的な場合に適しています(小指部分など)。
元の内装を残せるため、靴の履き心地の変化が少なく、費用も抑えられます。
注)こちらの修理はかかと周りには対応しておりません。
方法②|カウンターライニングの補強
かかと周りの内装を、新しい革で補強する方法です。
広範囲に傷んでいる場合や、芯材まで手を入れる前に補強する場合に選びます。
また、かかとの芯材が破損してしまった場合などの修理の対応もしていますが、靴を一度分解する工程が入るため、期間と費用がそれなりにかかります。その為、この場合には一度現物を見てからの判断となります。
私たちが修理のときに考えていること
修理でひとつ大切にしているのは元の作りに戻すだけでなく、できるだけ丈夫で長持ちする状態にしてお返しするということです。
同じ場所が同じように傷んだのであれば、その履き方に合った作りに変えたほうがいい。
当てる革の厚み、縫いの位置、仕上げの当たり。
そうした細部を、お預かりした一足ごとに考えて対応しています。
▶ 修理事例(靴修理・革小物修理・バッグ修理):https://www.spica-inc.jp/repair-case/
▸ 状態が分からない、という段階でも大丈夫です
「これは修理する状態なのか?まだ様子を見ていいのか?」という判断が、いちばん難しい所だと思います。
元麻布スピカでは公式LINEにお写真を1枚お送りいただければ、靴の状態についてご相談いただけます。かかとの内側は履き口から真上から撮っていただくと分かりやすくなります。
ご自身で対処できる範囲であれば、そのようにお伝えします。無理にお預かりすることはありません。
▶ LINEでのご相談はこちら:https://line.me/R/ti/p/@077xtoek
▶ 修理・メンテナンスサービス:https://www.spica-inc.jp/repair-service/category/mens/mens-repair/
▶ アクセス:https://www.spica-inc.jp/access/
同じ壊れ方を繰り返さないための3つの習慣

直したあと、また同じ場所が破れてしまっては意味がありません。
原因は履き方にあることが多いです。同じ壊れ方を繰り返さないための3つの習慣を意識して対策しましょう。
習慣①|靴べらを必ず使う
これがいちばん効きます。携帯用の靴べらを持ち歩くだけで、内装の寿命は変わります。
習慣②|夏は靴下の厚みを、少し見直す
薄すぎる靴下は足にも靴にも負担をかけます。吸湿性のある素材で、かかとまで覆うものを一足加えておくと、内装が守られます。
習慣③|ひと夏の終わりに、中を覗く
秋の衣替えのタイミングで、靴の中を上から覗いてみてください。かかとの内側が擦れていないか?変色していないか?これだけで、第1段階のうちに気づけます。
まとめ|内側はいちばん誠実な記録です
靴の外側は磨けば整います。けれど内側はその靴がどう履かれてきたかを、正直に残しています。
かかとの内側が破れているのはその靴がよく履かれてきた証でもあります。だからこそ、しっかり直して、また履けるようにする意味があると私たちは考えています。
この記事のポイント
- かかとの内側=カウンターライニング。ホールドと緩衝を担う重要な部材
- 夏は汗の塩分・薄い靴下・湿った状態での摩擦で傷みが進む
- 放置すると芯材、さらにかかとの形にまで影響が及ぶ
- 修理は部分当て革と全面交換の2通り。早ければ軽く済む
- 再発防止は靴べら・靴下の見直し・夏の終わりの点検
この夏を越えたら、一度、靴の中を覗いてみてください。
