新しい革靴を買った日、「この靴をいつ履き始めようか?」とワクワクしませんか?
箱を開けて、革の匂いを嗅いで、「この日」から履こうと思う。
けれど、その前にひとつだけ、やっておいたほうがよいことがあります。
新品の革靴は実はすでに乾き始めています。製造されてから、運搬を経て、店頭に並び、ようやくあなたの手元に来るまでに少なくない時間が経っています。そのあいだ、革は少しずつ油分を失っていきます。
この状態のまま履き始めるのと、油分を補ってから履き始めるのとではその後の足への馴染み方が変わります。
この記事ではおろす前の手入れから、履き慣らしの進め方、そして新品特有のトラブルへの対処までを整理します。
- おろす前にやっておくべきこと
- 履き慣らしの期間と進め方
- 段階別にできる対処
- 馴染む痛みと馴染まない痛みの見分け方
- 最初の一か月で避けるべきこと
なぜ、おろす前に手入れをするのか

新品なのに手入れが必要というのは少し意外に思われるかもしれません。理由をご説明します。
新品の革はすでに乾き始めている
革靴は作られてすぐお客様の手元に届くわけではありません。
製造され、検品され、箱に詰められ、倉庫で保管され、店舗に運ばれ、店頭に並び、そして購入される。この間に数か月から、場合によっては一年以上が経過していることもあります。
そのあいだ、革は空気に触れ続けています。箱に入っていても、油分の蒸発は少しずつ進みます。
つまり、あなたの手元に来た「新品」の革靴は作られた直後の状態とは違います。
乾いた革は馴染みにくい
油分の少ない革は硬く、しなやかさに欠けます。
この状態で履き始めると、足の形に沿ってくれるまで時間がかかります。それだけでなく、硬いまま強く屈曲させることで、ひび割れの起点を作ってしまうこともあります。
先に油分を補って、革を本来の状態に戻してから履き始める。これが、おろす前の手入れの目的です。
職人の知恵袋💡
最初のひと手間をかけた靴とそのまま履き始めた靴では、半年後の状態が違ってきます。ここは意外と差の出るところです。
プレメンテナンスという呼び方
この、おろす前の手入れを「プレメンテナンス」と呼ぶことがあります。
特別な作業ではありません。通常の手入れと同じことを履く前にやっておくというだけのことです。
おろす前にやっておきたい4つのこと

① ブラッシングでホコリを落とす
新品でも、店頭に並んでいるあいだにホコリを被っています。まず馬毛ブラシで、全体を軽く払ってください。
特に革と靴底の境目、羽根の下、コバのきわ。細かい部分にホコリが溜まっています。
② 油分を補う
クリームを薄く塗り、油分と水分を補います。
量は控えめに。片足で小豆ひと粒程度から始めてください。新品の革は思ったより吸い込みます。足りなければ、二度に分けて塗るほうが確実です。
色付きより、まずは無色(ニュートラル)のクリームが安全です。新品なので補色の必要はなく、保革が目的だからです。
靴のお手入れを始めようとして、最初につまずくのが、クリームの色ではないでしょうか。
店頭に並ぶ靴クリームは無色から、黒、こげ茶、明るい茶、赤みの強いもの、青みがかったものまで、驚くほどの色数があります。ものによっては四十色以上を展開しているシリーズもあります。
そこで多くの方がこう考えます。
靴クリームの色は何を選べばいい? 黒・茶・無色の使い分けと、色を入れるという考え方
③ 防水スプレーをかける
履き始める前に防水スプレーをかけておくと、初期の汚れとシミを防げます。
かけたあとは最低でも一晩置いてください。直後は膜が定着していないため、効果が出ません。
スエードの靴の場合、これは特に重要です。おろす前の防水スプレーの有無で、その後の汚れ方がまったく変わります。
④ 一日置いてから履く
クリームと防水スプレーが落ち着くまで、一日置いてください。
焦って翌日に履くと、クリームがまだ表面に残っていて、靴下や靴の内側に移ることがあります。
▸ [工房でお取り扱いしているもの] おろす前の手入れに使うもの
新品におろす前の手入れには、ホコリを落とすブラシ、油分を補うクリーム、そして防水スプレーがあれば十分です。あわせてシューキーパーを用意しておくと、初日から形を保ちながら休ませられます。
元麻布スピカでは、コロンブス社の最上級シューケアライン「BOOT BLACK(ブートブラック)」の各アイテムをお取り扱いしています。
何を揃えればよいか迷われる場合は、お履きになる靴の種類をお知らせいただければ、必要なものだけをご案内します。
▶ 商品一覧(メンテナンス商品):https://www.spica-inc.jp/item/maintenance/
履き慣らしの進め方

いよいよ履き始めます。進め方の基本は、短時間から少しずつ、です。
| 段階 | 履く時間の目安 | この段階ですること |
|---|---|---|
| 1週目 | 1〜2時間程度 | 近所の外出など。当たる場所を確認する |
| 2〜3週目 | 半日程度 | 通勤など。痛みが出ないか確かめる |
| 1か月目以降 | 終日 | 通常どおり。まだ休ませる日を挟む |
| 2〜3か月目 | 終日 | ほぼ馴染む。履きジワが決まってくる |
いきなり終日履かない
新しい靴を早く馴染ませたい気持ちは分かりますが、初日から一日中履くのは避けてください。
硬い革が足に当たり続けると、靴擦れができます。靴擦れができると、その部分をかばって歩き方が変わり、別の場所にも負担がかかります。
最初の数回は短時間で切り上げてください。
履いたら、必ず休ませる
履き慣らしの期間中も、連日履くのは避けてください。
一日履いたら、シューキーパーを入れて一日休ませる。この間に革は足の形を記憶し、湿気を抜きます。
休ませながら履くほうが、結果的に早く馴染みます。
毎日同じ革靴を履き続けていると、わずか1年で修理できない状態になることがあります。
しかし、革靴は2足をローテーションするだけで寿命が2倍以上延び、10年以上履き続けることも可能です。
この記事では、年間数千足の革靴を扱う麻布十番の職人が、2足から始める実践的なローテーション方法をお伝えしていき
革靴の“連続履き”はNG!靴職人が教える「革靴の正しい履き方」とは?
靴べらを、最初から使う
新品の革は硬く、かかとを押し込むように履くと、履き口の縁とかかとの内側に強い負担がかかります。
最初から靴べらを使う習慣をつけてください。ここが、その靴の寿命を左右します。
履き慣らし中に、革はどう変わっていくか

履き慣らしの期間中、革の内部では何が起きているのか。順を追って見ていきます。
最初の数回|革が沈み始める
履くと、足の圧がかかる部分の革が、わずかに沈み始めます。特に、甲の屈曲する部分と、足裏が当たる中底の部分です。
グッドイヤーウェルト製法の靴であれば、中底の下に詰められたコルクが足裏の形に沈み込んでいきます。この沈み込みが、「足に馴染む」という現象の正体のひとつです。
2〜3週目|履きジワが決まる
繰り返し屈曲することで、甲に履きジワが入ります。この時期に、シワの位置と深さが決まっていきます。
履きジワの入り方はその靴と足の相性を映します。細く均一なシワが入れば、木型が足に合っている証です。太く不規則なシワが入る場合は、靴が足に対して大きい可能性があります。
1か月目|かかとが馴染む
かかとの内側の革が足のかかとの形に沿ってきます。最初は硬くて擦れていた部分も、この頃には落ち着いてきます。
2〜3か月目|全体が落ち着く
革全体が足の形を記憶し、履いた瞬間の違和感がなくなってきます。ここまで来れば、履き慣らしは完了と考えてよいでしょう。
この時期に、もう一度手入れを
履き慣らしが一段落した頃に、もう一度きちんとした手入れをしてあげてください。
この時期の革は汗を吸い、屈曲を繰り返し、初めての負荷を受けています。ここで油分を補っておくと、その後の状態が安定します。
大切な革靴を、もっと長く美しく履くために。
大切な革靴だからこそ、正しい手入れで長く綺麗に履きたいけれど、「やり方がわからないし、失敗してダメにしたくない…」と、難しく感じていませんか?
一見難しそうに見える靴磨きも、各ステップが「なぜ必要なのか」を理解すれば、やることは非常にシンプル。
こ
革靴ってメンテナンス必須?靴磨きの重要性からやり方まで革靴職人が教えます!
馴染む痛みと、馴染まない痛みの見分け方

ここが、この記事でもっとも重要な部分です。
履き慣らしという言葉には「履いていれば馴染む」という前提があります。しかし、履いても馴染まない痛みもあります。
馴染む痛み|全体的で、緩やか
- 全体的に、やや窮屈に感じる
- 特定の一点ではなく、面で当たっている感じがする
- 履いているうちに、少しずつ楽になる
- 脱いだあと、足に痕が残らない
これは革がまだ硬く、足の形に沿っていないだけです。履き慣らしを続ければ、消えていきます。
馴染まない痛み|一点に集中し、強い
- 特定の一点が、はっきり痛い
- 履いた瞬間から痛く、時間が経っても変わらない
- 脱いだあと、その部分が赤くなっている
- 数回履いても、まったく改善しない
これは木型の形と足の形が合っていない可能性が高いです。履き続けても改善しにくく、靴擦れを作るだけになることがあります。
早めに見極めることが大切
この見極めを、履き慣らしの早い段階でしておくことをおすすめします。
三、四回履いてみて痛みがまったく変わらないのであれば、履き続けるより調整を検討したほうが早く解決します。
特につま先が当たる場合は要注意です。足長は伸ばせないため、履き慣らしでは解決しません。
▸ 履き慣らしても痛みが消えない場合
何度履いても同じ場所が痛むという場合、その靴と足の形が合っていない可能性があります。
元麻布スピカでは、部分ストレッチやインナーパッド挿入といったサイズ調整を承っています。当たっている箇所だけを狙って伸ばすことで改善する場合があります。
▶ 修理・メンテナンスサービス(紳士靴):https://www.spica-inc.jp/repair-service/category/mens/mens-repair/
▶ 元麻布スピカの「履きやすさ」:https://www.spica-inc.jp/shop/
新品特有のトラブルと対処
かかとが擦れる
新品でもっとも多いトラブルです。かかとの内側の革がまだ硬く、足のかかとと擦れることで起きます。
対処としては履く前にかかとの内側を手で揉んで柔らかくしておく方法があります。また、保護パッドを一時的に貼るのも有効です。
多くの場合、革が馴染めば自然に解消します。
小指が当たる
これは、馴染む場合と馴染まない場合があります。
革が柔らかくなることで解消することもありますが、足囲そのものが足りない場合は改善しません。数回履いて変化がなければ、調整を検討してください。
かかとが浮く
新品時にかかとが浮く場合、サイズが大きい可能性があります。
履き慣らしで革が伸びれば、さらに浮くようになります。この場合、早めにインソールやパッドで詰める調整をしたほうがよいでしょう。
靴の中で足が前に滑る
紐をしっかり締めていないことが原因のこともあります。紐を締め直しても改善しない場合は、サイズか木型が合っていない可能性があります。
最初の一か月でやってはいけないこと
① 雨の日に履く
おろしたての革靴を雨の日に履くのは避けてください。
革がまだ馴染んでいない状態で濡れると、乾く過程で硬化したり、シミが残りやすかったりします。防水スプレーをかけていても、初期は避けたほうが無難です。
② 長距離を歩く
旅行や、一日中歩く予定の日に、新品をおろすのは避けてください。
靴擦れができたとき、履き替えができない状況は最悪です。まずは近所の外出で試してから、本番に使ってください。
③ 連日履く
早く馴染ませたいという理由で連日履くと革が休む時間がありません。湿気を抱えたまま屈曲を受け続けることになり、かえって傷みます。
④ 無理に伸ばそうとする
履き慣らし前に、ストレッチャーで大きく広げるのはおすすめしません。
まずは自然に履いて、どこが当たるかを確かめてください。そのうえで、必要な箇所だけを調整するほうが確実です。
⑤ 大事な場面でおろす
結婚式や、重要な商談の日に新品をおろす。これは避けたほうがよいです。
足が痛くなると、それだけで集中力が削がれます。大事な日に履きたい靴こそ、事前に何度か履いて馴染ませておいてください。
大切な革靴を長く履き続けるために
革靴はスニーカーとは違い、部品ごとに分解できる作りになっているため、修理しながら履けば物によっては10年以上履き続けることもできます。
しかし修理には当然お金が掛かるので、できるなら修理をあまりせずに履き続けたいところ。そのためには日頃の扱い方が大切になってき
大切な革靴を長く履くために、日頃から気をつける7つのこと
よくあるご質問
Q. 履き慣らしにはどのくらいかかりますか
A. 履く頻度と革の種類によりますが、目安として数週間から一か月ほどです。硬い革(コードバンなど)は、もう少しかかることがあります。
Q. おろす前の手入れは本当に必要ですか
A. 必須ではありませんが、しておくと馴染みが早く、革の状態も安定します。特に、購入から時間が経っている靴や、乾いた質感の靴には有効です。
Q. 新品の靴を早く馴染ませる方法はありますか
A. 近道はありません。強引に伸ばしたり、濡らして曲げたりする方法もありますが、革を傷めます。短時間から少しずつ、が結局いちばん確実です。
Q. 履き慣らし中に靴擦れができました
A. まず傷の手当てを優先し、治るまでその靴は休ませてください。傷をかばって歩くと、歩き方が崩れて別の問題が起きます。
Q. コードバンの履き慣らしは違いますか
A. コードバンは繊維が密で硬いため、馴染むまでに時間がかかります。焦らず、短時間から丁寧に進めてください。また、専用のクリームを使うほうが安定します。
Q. オーダーした靴も履き慣らしは必要ですか
A. 必要です。足に合わせて作られていても、革が新しいことに変わりはありません。ただし、既製靴に比べて当たりが少ないため、馴染むまでの期間は短くなる傾向があります。
まとめ|おろす前の「プレメンテナンス」と短時間での履き慣らしが重要
新品の革靴は手元に届くまでに油分が抜けて乾き始めているため、履く前にブラシ・クリーム・防水スプレーで「プレメンテナンス」を行うことが大切です。
初日から終日履かず1〜2時間から徐々に慣らし、一点集中の激しい痛みは木型が合わない合図と見極めましょう。
雨や連日履きを避け、適切な休息を挟むことで一生モノの履き心地に育ちます。
この記事のポイント
- 新品の革靴は店頭に並ぶまでにすでに乾き始めている
- おろす前に、ブラッシング・油分補給・防水スプレーを
- 履き慣らしは短時間から。必ず休ませながら進める
- 全体的な窮屈さは馴染むが、一点集中の痛みは馴染まないことが多い
- 雨の日・長距離・大事な場面での「おろし」は避ける
最初のひと月、ちょっと丁寧に付き合ってみる。それだけで、10年後も「履いていて心地いい」が続くお気に入りの一足になりますよ。
