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「やってしまいました!」
梅雨どきの工房にその言葉とともに駆け込んでこられるお客様が年に何十人もいらっしゃいます。

朝出かけたときは晴れていたのに、夕方どしゃ降りに。傘も差せない状況でいつもの革靴がずぶ濡れに。家に帰ったら革の表面に白い輪のような跡ができていた──。
お気持ちは本当に痛いほど分かります。お気に入りの一足をまさかこんな形で傷めてしまうとは…。

けれど慌てないでください。雨に濡れた革靴は正しく対処すれば、ほとんどのケースで元通りに戻せます。問題なのは「濡らしたこと」ではなく、「その後の対処」のほうなのです。
本記事では革靴が雨に濡れたときの正しい救出方法を応急処置から修復、予防までお伝えします。

この記事でわかること
  • 濡れた革靴を救出する、家庭でできる4つの応急処置

  • 水ジミのダメージレベル別の対処法
  • 革靴を傷める「やってはいけない5つのNG」
  • 梅雨を乗り切るための予防と備え
  • プロに頼るべきタイミングの見極め方

まず深呼吸。革靴はすぐにはダメになりません

雨の日に濡れた革靴
濡れてしまった革靴を玄関で見たとき、いちばんやってはいけないのは「慌てて何かをする」ことです。
ここからの数時間で革靴のその後を決めます。ですから、まずは深呼吸して正しい順番で対処しましょう

濡れてから24時間が勝負どころ

革靴が雨に濡れた場合、おおむね24時間以内に適切な対処をすればほとんどのダメージは回復可能です。
逆に、濡れたまま放置してしまうと革は乾く過程で硬化し、シミは固定化されていきます。同じ濡れ方でも初動の有無で結果が大きく変わるのです。

職人の知恵袋💡

私たちの工房に駆け込んでこられるお客様のうち、24時間以内にご相談いただけた方はほとんどのケースで元の状態に近いところまで戻せます。一方、1週間以上放置されたものは回復が難しいことも増えてきます。

濡れた直後の4ステップ応急処置

濡れた靴のメンテナンス
家に着いてからの4ステップを順番にご紹介します。所要時間は10分ほど。

ステップ①|表面の水分を押さえるように拭き取る

玄関で靴を脱いだら、まずは柔らかい布やタオルで表面の水分を吸い取ります
ここで重要なのは「こすらない」こと。革の表面が濡れた状態ではこすると革の繊維が傷つきます。スポンジで水を吸わせるように、押さえながら拭き取ってください。

ステップ②|靴の中に丸めた新聞紙を詰める

意外に思われるかもしれませんが、革靴の被害でいちばん大きいのは内部の湿気です。
ライニング(内装)に染み込んだ水分は革の内側から劣化を進めます。これを早く取り除くために丸めた新聞紙を靴の中にぎっしり詰めます
新聞紙の代わりにキッチンペーパーや使い古しのタオルでも構いません。要は水分を吸い取るものを内部に入れる、ということです。

ステップ③|1〜2時間ごとに新聞紙を交換

詰めた新聞紙は、湿気を吸ったらすぐに乾燥能力を失います。最初の数時間は、1〜2時間ごとに新しいものに交換してください。
3〜4回交換した頃には、靴の内部の水分はだいぶ抜けています。

ステップ④|風通しの良い日陰で、ゆっくり乾かす

外側の表面が乾いてきたら新聞紙を抜き、風通しの良い場所に置きます
ここで大切なのは絶対に急がないことです。革靴の完全な乾燥には最低でも丸2日かかります。「明日も同じ靴を履きたい」という気持ちはぐっと我慢して、もう一足用意してください。
これだけでほとんどの軽度の濡れは回復します。

 水ジミができてしまった、3段階の対処レベル

雨の日に濡れた革靴
ちゃんと拭いたけれど、シミが残ってしまった」というケースもあります。シミの程度に応じて、対処法を3段階に分けてお伝えします。

レベル①|うっすら輪が見える、軽度のシミ

乾いた後にわずかな輪状の跡が残っている状態。色が少しだけ変わって見える、というレベルです。

この程度であればご自宅で対処できます。方法は「靴全体を軽く湿らせた布で均一に拭く」というものです。
シミができるのは水が染み込んだ部分と染み込んでいない部分の境目に「水分の差」が生まれるためです。全体を均一に少し湿らせることでその境目をなくし、シミが目立たなくなります。
拭いた後は再びゆっくり乾燥。最後にクリームでケアすれば、ほぼ気にならない状態に戻ります。

レベル②|はっきり輪が見える、中度のシミ

乾いた後、明らかに白い輪や色違いが残っている状態。レベル①の対処をしても改善しない場合です。

この段階はご自身での対処はリスクが伴います。間違った処理をするとシミが広がったり、革の色が抜けてしまったりすることがあります。
ご相談いただくのが安全な範囲です。状態を診断したうえで、ご自宅でできる対処かお預かりすべきかをお伝えします。

レベル③|革が盛り上がっている、重度のダメージ

コードバンや一部のスムースレザーで起きる、「水ぶくれ」のような盛り上がり。革の繊維が膨張して戻らなくなっている状態です。

この状態はご自身での対処をおすすめしません。早めにプロにお持ちください
私たちの工房では、コードバンの水ぶくれを修復する技術があります。ただし、完全に元通りにならないケースもあるため、できるだけ早くお預けいただくほど回復の可能性が高くなります。

やってはいけない、5つのNG行為

ドライヤー
良かれと思ってやったことが、革靴に致命傷を与えることもあります。よくあるNG行為を5つ、お伝えします。

NG①|ドライヤーで乾かす

急いで乾かしたい気持ちは分かりますが、これは絶対に避けてください。
ドライヤーの熱風は革の油分を一気に蒸発させます。革は急激に乾燥して硬化し、ひび割れの原因になります。

NG②|直射日光に当てる

日向で乾かすのもNGです。理由はドライヤーと同じく、急激な乾燥による革のダメージです。
乾かす場所は必ず「風通しのよい日陰」を選んでください。

NG③|ストーブやヒーターの前で乾かす

冬場にやりがちな失敗です。暖房器具の前は急速乾燥するため、革にとっては過酷な環境になります。

NG④|濡れた状態でクリームを塗る

「すぐ栄養を補給しないと」と慌ててクリームを塗る方がいらっしゃいますが、これも避けてください。
革の内部に水分が残った状態でクリームを塗ると水分が抜けなくなり、内部からカビが発生する原因になります。必ず完全に乾燥してからクリームでケアしてください。

NG⑤|こすって水ジミを消そうとする

シミができてしまうと、つい強くこすって消そうとしがちです。これはシミを広げる最悪の方法です。
革の表面はこすると繊維が傷つき、色味が変わってしまいます。シミを消したい場合は「全体を均一にする」発想で優しく対処してください。

梅雨を乗り切る、予防の知恵

革靴に防水スプレーを行う様子
濡れた後の対処も大切ですがそもそも濡らさない、濡れてもダメージが少ないように備える、という発想も重要です。

予防①|防水スプレーは「履く前日」が正解

梅雨前に防水スプレーをかけておくのはシンプルですが効果絶大です。
ただしポイントが2つあります。

  • 革靴専用の、シリコン系でなくフッ素系のスプレーを選ぶ
  • スプレー後すぐに履かず、最低でも一晩置いてから履く

スプレー直後はまだ完全に膜ができておらず、効果が出にくいメーカーのものもあります。前日にしっかりと防水対策を行い、乾燥させてから履くというリズムを身につけてください。

予防②|雨用の革靴を、1足用意する

「お気に入りの革靴を、雨で傷めたくない」という方には「雨専用の革靴」を1足持つことをおすすめします。
ラバーソール仕様の革靴や、撥水加工された革を使ったモデルなど、雨に強い革靴は今や多く出ています。1足あれば天気予報が怪しい日に、お気に入りの一足を温存できます。

予防③|ローテーションを徹底する

革靴を毎日同じものを履くのは靴にとっていちばん厳しい使い方です。
最低でも、革靴を2〜3足ローテーションすること。これだけで雨の日に濡らしてしまっても、翌日履く靴があるため、無理に乾かそうとせずに済みます。

プロに頼るべきラインを、はっきりお伝えします

革靴をタオルで拭く様子
最後に、ご自身での対処とプロに頼るべきラインを明確にお伝えします。

ご自身で対処してOKな範囲

  • 濡れた直後の応急処置(タオルで拭く、新聞紙を詰める、陰干し)
  • レベル①の軽度なシミの均一化
  • 乾燥後のクリームによる通常ケア

プロに相談したほうがいい範囲

  • レベル②以上のはっきりした水ジミ
  • コードバンの水ぶくれ
  • スエードに水ジミができた場合(スエード専用の対処が必要)
  • 濡れてから24時間以上放置してしまった
  • 自分で対処を試みて、状態が悪化してしまった

私たちの工房では、まずは無料で状態を診断します。「これは自分で大丈夫」「これはお預かりが必要」と率直にお答えします。
ご自身でできる範囲のことをわざわざプロに頼む必要はありません。逆に、ご自身では難しい範囲を頑張ってしまうと、かえって悪化させてしまう。その境界線をはっきりすることが革靴を長く愛用する秘訣です。

まとめ|雨は革靴の敵ではない

革靴と雨の関係はよく「敵対関係」のように語られます。けれど、本当はそうでもありません。
雨に濡れることがあるからこそ、革は使い込まれた表情を持つようになり、ケアの大切さが見えてきます。
お気に入りの革靴と長く付き合うとは雨の日も含めて、すべての季節と上手に付き合っていくということです。
濡らしてしまっても、慌てない。正しい対処を知っていればほとんどのダメージは回復します。

この記事のポイント

  • 濡れた革靴は24時間以内の対処でほとんど回復可能
  • 応急処置は「拭く・詰める・換える・陰干し」の4ステップ
  • 水ジミは3段階に分けて、レベルに応じた対処を
  • ドライヤー・直射日光・濡れた状態でのクリームはNG
  • 梅雨対策は「防水スプレー」「雨用靴」「ローテーション」

あなたの革靴が雨の日にも、これからも長く健やかでありますように。