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30代でオーダー靴って、まだ早いですか?

この質問を年に数回、受けることがございます。

まだあまり革靴を買ったこともなく、オーダーか?既成靴か?で迷っていらっしゃる方は決まってこの言葉を口にされます。
30代という年代で、オーダーメイドの革靴を作るというのは贅沢すぎるのではないか?身の丈に合わないのではないか?と。

今日は少し時間をいただいて、その問いにひとりの靴職人として、お返事を書かせていただきたいと思います。 

この記事でわかること
  • 30代がオーダー靴の「適齢期」である理由

  • 人生の「節目」に一足の靴を仕立てる本当の意味
  • 10年、20年先を見据えた「未来の自分への贈り物」としての価値
  • 初めてでも安心な「セミオーダー」という選択肢と最初の一歩

まず、結論を申し上げます

結論からお伝えします。
30代でオーダー靴を作ることは決して早すぎません。むしろ、私たち職人の視点からすると、30代こそ、オーダー靴の適齢期だと感じています。

なぜそう言えるのか

理由はいくつかありますが、いちばん根本的なものはこうです。

30代という年代は「自分の人生にどんな道具を連れていくか」を、本気で考え始める年代だからです。
20代の頃はまだ自分の人生のスタイルが定まっていません。これから何を選び、何を捨て、何を持って歩いていくのかが、はっきりしていない時期です。
30代になると、それが少しずつ見えてきます。仕事も、家庭も、趣味も、生き方の輪郭が、自分なりに形を持ち始める
そういう時期に出会う「一足」はこれから先の長い時間、あなたと並んで歩むパートナーになります。

30代こそ、オーダー靴の適齢期である理由

木型棚
もう少し具体的に、3つの理由をお伝えします。

▸ 理由①|足の形が、ほぼ確定する年代だから

意外に思われるかもしれませんが、人間の足は20代後半まで微妙に成長を続けます。骨格的にも、筋肉的にも、足の形が完全に「あなたの足」として落ち着くのは、30歳前後と言われています。
つまり、20代でオーダー靴を作っても5年後には足が変わって、木型が合わなくなる可能性があります。特に20代に比べて代謝が悪くなる30代は足だけでなく、体全体も体脂肪が付きやすくなる年齢なので、体重の増減に応じて足も変化します。
一方、30代以降に作ったオーダー靴はその後20年・30年と多少の微調整を加えながら、ほぼ同じ木型で履き続けられます。投資の効率が、まったく違うのです。


▸ 理由②|「一生もの」を持つ価値が、本当に分かる年代だから

20代の頃の私たちは、新しいものに惹かれます。流行のスニーカー、トレンドの服、最新のガジェット。それはそれで価値のあることです。
30代になると、少しずつ視点が変わってきます。「次々に買い替える」より「ひとつのものを長く使う」ことの豊かさが見えてくる。
この変化が起きたタイミングこそ、オーダー靴を作るのに最も向いている時期です。一足を10年・20年と育てていく愉しみが、自然と理解できるようになっているからです。


▸ 理由③|人生の節目が、本当に大切に思える年代だから

結婚、転職、独立、昇進、子どもの誕生、家を持つこと──30代は、人生の節目が次々と訪れる年代です。
そういう節目に、何か形あるものを残したいと感じるのも、30代の特徴ではないでしょうか。
オーダー靴はその節目の記念として、これ以上ない選択だと私たちは考えています。式や記念日が終わっても、靴は残ります。10年経っても、20年経っても、その節目の自分を思い出させてくれる存在として。

私たちが工房で見てきた、ある30代の方の話

職人と革靴
具体的な話をひとつさせてください。
数年前、35歳のときに初めてオーダー靴を作りに来てくださった、あるお客様の話です。

最初のご来店の日

そのお客様は、IT系の企業で働かれている方でした。「人生で初めてのオーダー靴を作りたい」とお問い合わせをいただき、来店予約をいただきました。
ご来店の日、応接スペースに座られた最初のひと言は、今でも覚えています。

「いつかは作ってみたいと思っていたんです。でも、自分にはまだ早いんじゃないかって、ずっと先送りにしてきました。それでも35歳の今年、何かを始めたくて

お話を伺うと、その方は今年、社内で重要なプロジェクトを任され、毎日緊張感のある仕事を続けていらっしゃったそうです。

「責任が増えた分、自分を奮い立たせてくれるものを持ちたいと思ったんです」

数ヶ月後、完成した一足

セミオーダーで、ダークブラウンのストレートチップをお選びいただきました。
数ヶ月後、完成した靴をお渡しする日。お客様はその場で履いてみて、しばらく沈黙していました。
これが、自分の足に合っているということなんですね
そう、静かにおっしゃいました。これまで既製靴しか履いてこなかった方が初めて「自分の足のための靴」に出会った瞬間でした。

3年後、修理に来られたお客様

最近、そのお客様がオールソール交換のために、その靴を持ってきてくださいました。3年経って革は深い艶を帯び、所々に履きシワが入っていました。
「この靴を履いた日は、不思議と仕事がうまくいくんです」
そう笑いながらおっしゃったお客様の表情に、3年前の張り詰めていた雰囲気はもうありませんでした。
一足の靴が、35歳から38歳のお客様の3年間を、足元から支え続けてきた。そういう関係が築かれていることが、私たち職人にも伝わってきました。

「節目」というものの、本当の意味

手紙と時計
ところで、「節目」というのは本当はどんなものだとお考えでしょうか。

節目は待つものではなく、作るもの

結婚、昇進、独立──こういう「分かりやすい節目」を私たちは特別な日と感じます。
けれど、節目というのは本当はもっと自由なものではないでしょうか。
「自分の中で、何かが変わった」と感じた日「これからは、こう生きていこう」と密かに決めた日。誰にも気付かれない、自分だけの内面の節目。
そういう日こそ、本当の節目です。

内面の節目に、形を与える

内面の節目は他人に証明できません。けれど、自分だけは知っている。
そういう日に、何か形あるものを残しておくことには特別な意味があります。
オーダー靴はその「内面の節目」に形を与える、ささやかな儀式になり得ます。靴職人と話し、自分の足を測り、革を選び、完成するまでの時間を過ごし、出来上がった一足を受け取る。この一連の体験そのものが、節目を可視化する作業です

職人の一言📝

私たちの工房に来てくださる30代の方の多くは、はっきりとした理由を語られません。「ちょうど、そういう気持ちになったので」とだけ、おっしゃいます。それで、十分です。

一足の靴が、これからの10年と並走するということ

靴紐を結ぶ
オーダー靴は、ふつうに10年以上履けます。グッドイヤー製法やハンドソーン製法で作った靴は、ソール交換を繰り返しながら、20年以上履き続けることも普通です。
つまり、35歳で作った一足は、45歳まで、もしかしたら65歳まで、あなたと並走します

10年後の自分が、その靴を見る瞬間

想像してみてください。
今から10年後、あなたが45歳になったとき。
仕事も家庭も今とは違う形になっているはずです。何が変わって、何が変わらなかったのか、それは未来の自分にしか分かりません。

そのとき、玄関の靴箱を開けて35歳の自分が作ったオーダー靴を見たら、どんな気持ちになるでしょうか。
色は深まり、革は柔らかく馴染み、あなたの歩き方の癖が刻まれている。
あの頃の自分が、こんな靴を作ったんだな
そう思える瞬間が、10年後に必ずあります。

靴を作るのは、今のあなただけではない

オーダー靴を作るというのは「今の自分のため」だけの行為ではありません。
10年後、20年後の自分のために、今の自分が一足を仕立てる。そういう、時間を跨いだ贈り物のような側面があるのです。
そう考えると、30代でオーダー靴を作ることは決して早すぎることではない。むしろ、未来の自分への、最初の手紙のようなものかもしれません。

それでも踏み出せないあなたへ

スピカ外観
ここまで読んでくださって、それでもまだ一歩を踏み出せない方もいらっしゃると思います。
当然です。オーダー靴は決して安い買い物ではありません。慎重になるのは健全な感覚だと思います。

いきなり、フルオーダーでなくていい

オーダー靴にはいくつかの種類があります。ビスポーク(フルオーダー)が、必ずしも最初の一歩である必要はありません。
私たちの工房で、30代の方が初めて作られるオーダーはセミオーダーがいちばん多いです。価格は6万円〜15万円程度。納期は約3ヶ月〜6ヶ月。木型を選び、革を選び、デザインを選ぶ、初めてのオーダー体験としてちょうどよい範囲です。
ここでオーダー靴の世界に踏み込み、5年後、10年後にもっと踏み込みたくなったとき、ビスポークに進めばよい。多くの方が、そうやって少しずつご自分のオーダー靴遍歴を作っていかれます。

まずは、お店に来てみてください

オーダーする前提でなくて構いません。
オーダー靴が、いったいどんなモノなのか?」を知るために、一度工房に足を運んでみるのもおすすめです。
オーダーは靴の好みはもちろんですが、その後のアフターフォローを考えるとお店や職人との相性も重要なポイントとなってきます。ですので、一度店舗に足を運び、色々と話をすることで相性を見ていただければと考えております。
ご注文を検討されている方には採寸も承っています。30分ほど時間をいただきますが、その時間の中で、ご自分の足の特徴を職人から直接お聞きいただけます。
それを聞いた上で、「やっぱり既製靴で十分」と判断されても、構いません。けれど、もしかしたら、その採寸の時間が、オーダーの楽しみを知る最初の一歩になるかもしれません。

関連ページ:『セミオーダーシューズ』

関連ページ:オーダーシューズについて -3つのオーダーコース-』

まとめ|自分にとっての、ちょうどいいタイミング

最後にひとつだけ、付け加えさせてください。
まだ早い」という思いはたいてい、何かを始めない理由として、私たちが自分自身に許す免罪符です。
人生の中で、物事を始める「ちょうどいい時期」は誰にも分かりません。30代で始める方も、40代で始める方も、60代で初めて作る方も、いらっしゃいます。
それぞれの「ちょうどいい」が、ご自分にしか分からない形であります。

この記事のポイント

  • 30代こそ、オーダー靴の適齢期(足の形が確定し、価値観が成熟する時期)

  • オーダー靴は人生の「節目」に形を与える儀式になる
  • いきなりフルオーダーでなく、セミオーダーから始められる
  • 迷っているなら、まずは下見だけでも

もし今、あなたが「もしかしたら、自分にとっての、ちょうどいいタイミングかもしれない」と感じているなら──
麻布の工房で、お待ちしています。