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革靴にとって、一年でいちばん過酷な季節はいつだと思われますか?
雨に濡れる梅雨、と思われるかもしれません。乾燥する冬、と考える方もいるでしょう。
私たち職人にとっての答えは「夏」です。
高温、多湿、大量の汗。この3つが揃う夏は革という素材にとって、もっとも厳しい環境です。そして、革を扱う私たち職人にとっても、一年でいちばん神経を使う季節でもあります。
本記事では夏という季節が革靴に何をもたらすのか、そして私たち職人が夏にどのように革と向き合っているのかを、お話ししたいと思います。少し専門的なお話ではありますが、革靴を愛する方には知っておいてほしい話です。

この記事でわかること
  • 夏が革靴に与える3つのダメージ

  • 職人が夏に実践しているケアの知恵
  • 梅雨明けにすべき革靴のケア
  • 夏の正しい保管方法

夏が革靴にもたらす3つのダメージ

夏の様子
夏が革靴に与えるダメージは、大きく3つ
あります。

ダメージ①|湿気によるカビ

夏の高い湿度は革にとってカビの最大の原因です。
革は天然素材なので、栄養分(タンパク質や油分)を含んでいます。これに湿気と温度が加わると、カビが繁殖しやすくなります。特に、汗を吸ったまま下駄箱にしまわれた革靴はカビにとって絶好の環境です。
一度カビが生えると革の内部まで菌糸が入り込み、完全に除去するのが難しくなります。湿気と温度が上がる夏のカビ対策は、生やさないための「予防」がすべてと言っても過言ではありません。

ダメージ②|汗による塩分・皮脂の蓄積

大量の汗は革靴の内部に塩分と皮脂を蓄積させます。
塩分は革を硬化させ、白い「塩浮き」となって現れることがあります。皮脂は雑菌の栄養となり、ニオイの原因になります。夏のあいだ革靴の内部では、こうした目に見えない蓄積が進んでいます。

ダメージ③|冷房による急激な乾湿の差

意外と見落とされるのが屋外の高温多湿と、屋内の冷房による乾燥の激しい往復です。
革は急激な環境変化を嫌います。汗で湿った状態から冷房の効いた部屋で急に乾く、という繰り返しは革に小さなストレスを与え続けます。

職人が夏の工房でいちばん気をつけていること

工房の靴棚
革を扱う私たちにとって、夏は気の抜けない季節です。お預かりしている革靴、作りかけの靴、保管している革の材料──すべてを夏の湿気から守らなければなりません。

湿度管理が、夏の仕事の半分

私たちが夏の工房で最も気を配っているのは湿度の管理です。
革にとって理想的な湿度は、40〜60%程度とされています。夏の日本は、何もしなければ70〜80%に達します。そのため除湿を徹底し、革と靴を適切な環境に保つことが夏の仕事の半分を占めると言っても過言ではありません。

職人の知恵袋💡

お客様から「革靴をどう保管すればいいですか」とよく聞かれますが、答えはシンプルで、「私たちが工房でやっていることと同じ」です。風を通し、湿度を一定に保ち、汗を残さない。プロも家庭も、基本は変わりません。

汗を残さない、という鉄則

夏にお預かりした革靴の手入れで、私たちが最初に行うのは内部の汗(塩分・皮脂)を取り除くことです。
表面を磨く前に、まず内部を清潔にする。これは夏のケアの鉄則です。家庭でも表面のクリームケアの前に、内部の乾燥と清潔を優先していただきたいところです。

夏はあえて「何もしない」勇気も必要

もうひとつ、職人として大切にしている考えがあります。
夏は革に過剰なケアをしないことです。
「夏だから栄養を補給しなきゃ」とクリームを塗りすぎると、湿気と相まってカビの原因になります。夏は油分を足すより湿気を取り、清潔と乾燥を保つことのほうがはるかに重要です。

梅雨明けに、必ずやっておきたいケア

革靴とブラシ
梅雨が明けたタイミングは革靴のケアにとって重要な節目です。梅雨の間に溜まった湿気をリセットし、本格的な夏に備える時期だからです。

ステップ①|全ての革靴を一度出して点検する

梅雨明けには下駄箱の革靴を全て出して、点検することをおすすめします。
梅雨の期間しまいっぱなしだった革靴に、カビが生えていないか?湿気がこもっていないか?
一足ずつ確認してください。早期に発見すれば、カビも軽症のうちに対処できます。

ステップ②|風を通して、しっかり乾かす

点検した革靴は風通しの良い日陰で、一度しっかり乾かします。シューキーパーを入れ、半日〜一日、外気に触れさせる。これだけで梅雨の湿気がリセットされます。

ステップ③|軽いカビは、早めに対処

もし白いカビを見つけたら固く絞った布で拭き取り、乾燥させたうえで革用の除菌・防カビ剤でケアします。
ただし、広範囲のカビや革の内部まで入り込んだカビは家庭での対処が難しい場合があります。無理にこすると革を傷めるため、ひどい場合はご相談ください。

夏の保管、ワンシーズン履かない靴のために

革靴と手入れ道具
夏のあいだ履かない革靴(冬用のブーツなど)の保管
にも、コツがあります。

保管前に完璧に清潔にする

長期保管の鉄則は「汚れと汗を残したまましまわない」ことです。
汚れや汗が残ったまま長期保管すると、それがカビの栄養になります。しまう前に、しっかりクリーニングし、完全に乾かしてください。

通気性を保ちながらしまう

  • シューキーパーを入れて、形を保つ
  • 靴箱にしまう場合は乾燥剤を入れる
  • ビニール袋など密閉容器は避ける(湿気がこもる)
  • 通気性のある不織布の袋がおすすめ
  • ときどき下駄箱の扉を開け、換気する

ひと夏に一度は様子を見る

長期保管中もひと夏に一度は箱を開けて、カビや湿気の様子を見てあげてください。革靴は生き物です。しまいっぱなしにせず、ときどき気にかけることが長持ちの秘訣です。

それでも、革靴は夏に育つ

革靴を手入れいしている様子
ここまで、夏が革靴にとっていかに過酷かをお伝えしてきました。けれど最後にひとつ、別の側面もお話ししておきたいと思います。
夏は革靴が育つ季節でもあるのです。

過酷さの中にこそ、変化がある

夏の汗、湿気、暑さ。それらは確かにダメージにもなりますが、同時に革を足に馴染ませ、独特の経年変化を進める要因でもあります。
適切にケアをしながら夏を越した革靴は秋になると、ひと回り深い表情を見せてくれます。汗を吸い、暑さに耐え、職人とあなたの手で守られた革は確実に「あなたの靴」へと近づいています。

職人の知恵袋💡

私たちが夏に神経を使うのは、革靴を「守る」ためだけではありません。過酷な夏を、できるだけ美しく越させてあげるためです。夏を上手に越した革靴は、必ず応えてくれます。

夏のケアは革靴への愛情そのもの

夏に革靴をケアするというのは手間のかかることです。けれど、その手間こそが革靴を長く愛するということの本質なのだと私たちは考えています。
過酷な季節だからこそ、少しだけ気にかけてあげる。そうやって守られた一足は何年も先まで、あなたと歩き続けてくれます

まとめ|過酷な夏を越え革靴を育てる

夏は高温多湿や汗により革靴にとって最も過酷な季節ですが、適切な湿度管理と「乾燥・清潔」を意識したケアを行うことでダメージを防ぐだけでなく、靴をより足に馴染ませ深く育てることができます。
梅雨明けの点検や通気性を保った保管を心がけ、愛情を持って手入れをしながら、大切な一足を美しく長持ちさせましょう。

この記事のポイント

  • 夏のダメージは「カビ・汗の蓄積・急激な乾湿差」の3つ
  • 夏のケアは油分を足すより「湿気を取り、清潔と乾燥を保つ」
  • 梅雨明けは全ての革靴を点検・乾燥させる節目
  • 長期保管は清潔にして通気性を保ってしまう
  • 過酷な夏を越した革靴はひと回り深く育つ

この夏もあなたの革靴が健やかでありますように。